昨年度までに取得した、野生株の生育下限50°Cを下回る45°Cで生育可能なThermus thermophilus 16S rRNA 遺伝子変異体(50-4-10、50-6-1、50-6-3株と命名)および45°Cでの適応実験の際、コントロールとして野生株(T. thermophilus)16S rRNAを含む株(DB2)を初発材料として得られた45°C生育株(DB2ev)のゲノム解析を行った。 異種16S rRNAを保持株については、16S rRNA遺伝子や小サブユニットを構成するタンパク質に変異が発生すると考えていたが、これらの遺伝子に変異は見当たらなかった。以下、複数の株で共通の遺伝子に変異が見られたものを列挙する。 まず、FtsK遺伝子内に変異を含む変異株が3系統見出された。FtsKタンパク質は、細胞分裂や染色体の分配に関わる膜タンパク質であり、その変異体は高温での分裂ができなくなるとされている。 また、proC遺伝子の終止コドン直下に変異が見られた株が3系統見つかった。が、non-coding領域でもあり、適応への影響は定かではない。secAとacetate-CoA ligase遺伝子間(遺伝子の下流)の63 bpにおいてはDB2evを含むすべての適応株で変異の集積が見られた。non-coding領域ではあるが、この配列の二次構造予測の結果、強固な構造をとり、変異が推定二次構造内にあることから、二つの遺伝子発現のバランスが変化することで適応に関与した可能性もある。なお、今回のゲノム解析で見出された変異はいずれも明確な塩基置換ではなく、縮退塩基として表記された。Thermus thermophilusは複数のゲノムからなるpolyploidであり、複数コピーの一部のみが置換を受けたものと推察された。さらなる馴養により、ゲノム上も表現型上も、より安定な株へと進化を遂げるのかもしれない。今後は、ゲノム解析で得られた情報をもとに、野生株(DB2)に再度ピンポイントに変異を戻し、適応の有無を確認し、適応進化の分子基盤を明らかにしたい。
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