研究課題
本研究では、野外データ解析・標本分析と飼育実験によって、小型浮魚類複数種を対象として、卵量・卵質に対する種内・種間密度効果を検証する。資源管理への適用のため、卵生産量に基づいた新しい資源管理基準の設定方法を検討し、資源管理リスク評価を行う。加入研究への適用のため、卵生産量に基づいた新しい生残指標値を検討し、その指標値と環境要因の関係から、既存研究の再検証を行う。以上より、従来の産卵親魚量に基づいた資源管理・加入研究に代わって、卵生産量に基づいた新しい資源管理・加入研究の基盤を構築する。2022年度は以下の内容を実施した。I. 野外データ解析・標本分析 (1) マイワシとカタクチイワシの卵質に対する種内・種間密度効果を検証するため、冬季採集の標本を中心に卵サイズを測定し、時空間変動を調べた。卵サイズと水温の負の関係を明らかにした上で、資源水準間で比較した結果、マイワシの卵サイズは資源水準と正の関係 (個体当たり卵生産量と負の関係)、カタクチイワシの卵サイズはマイワシ資源水準と負の関係 (個体当たり卵生産量と正の関係) にあるという暫定結果を得た。マサバとゴマサバについて、卵サイズと水温の負の関係を考慮した魚種判別法を考案した。II. 飼育実験 (1) 親魚の環境要因が仔魚の成長・生残に及ぼす影響を調べる飼育実験を進めた。マサバとカタクチイワシについて、給餌制限の親魚由来の仔魚は、飽食条件の親魚由来の仔魚に比べて、成長が遅く飢餓耐性も低いことを明らかにした。(2) 卵巣の炭素・窒素安定同位体比分析から、マイワシの卵生産における栄養源は、年齢に伴って摂取栄養から蓄積栄養へと依存度が変化することを明らかにした。III. 資源管理・加入研究への適用 (1) 卵生産量と卵密度のデータを更新した。(2) 国際シンポジウムを利用して、卵生産量に基づいた資源管理・加入研究の方向性を提案した。
2: おおむね順調に進展している
野外データ解析・標本分析では、マイワシとカタクチイワシの卵質に対する密度効果の検証のため、過去年に遡って卵サイズ測定が進んだ。その結果、卵サイズに対する環境の影響を明らかにした上で、卵サイズの長期変動要因に関する暫定結果を得た。卵サイズに基づくマサバとゴマサバの魚種判別法を飛躍的に改善した。飼育実験では、野外データ解析・標本分析での成果を検証するため、マサバとカタクチイワシの密度効果に伴う初期成長に及ぼす影響やマイワシの卵生産に対する種内密度効果の理解が進んだ。資源管理・加入研究への適用では、国際シンポジウムを利用して、これまでの成果に基づいて将来の資源管理・加入研究の方向性の提案をした。新型コロナウイルス感染症の情勢により、国際学会での成果発表やワークショップの一部が累積的に遅延してきているが、研究の進捗自体に遅れは生じなかった。
野外データ解析・標本分析では、マイワシとカタクチイワシの卵量・卵質 (卵サイズ) に対する種内・種間密度効果の検証結果をまとめる。環境要因の影響と資源水準間の比較結果を統合し、魚種特有の卵生産戦略を提示する。飼育実験では、野外データ解析・標本分析での成果を検証しつつ、資源管理・加入研究への適用で求められる卵量・卵質、初期生活史への影響の情報を取得できるように実験系を拡張する。資源管理・加入研究への適用では、資源管理方策への適用を目指した枠組みの検討を進める。対面・オンラインのワークショップによって、代表者・分担者の共同作業を促進し、国際誌及び国際シンポジウムでの成果公表を進める。
国際シンポジウム及びワークショップが延期となったため。今後、成果発表や国際共同にかかる旅費等として使用予定。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Aquaculture, Fish and Fisheries
巻: 2 ページ: 208~215
10.1002/aff2.38
Oecologia
巻: 199 ページ: 589~597
10.1007/s00442-022-05216-6
Journal of Sea Research
巻: 187 ページ: 102247
10.1016/j.seares.2022.102247
Progress in Oceanography
巻: 206 ページ: 102860
10.1016/j.pocean.2022.102860
Frontiers in Marine Science
巻: 9 ページ: 1063468
10.3389/fmars.2022.1063468
http://katsuo.fs.a.u-tokyo.ac.jp/takasuka/