研究課題
温暖化や気候変動により、生態系、生物多様性、農業などに影響が生じていることから、生物の環境適応機構の解明は緊急に取り組むべき重要課題と位置付けられている。生物の体内には1年周期のリズムを刻む概年時計が存在し、遺伝することも知られているが、1年という長い周期のリズムを刻む分子基盤の解明は進んでいない。約2時間のリズムを刻む分節時計も、約24時間のリズムを刻む概日時計も、周期の長さこそ違えど、ともにそれらのリズムを構成する「時計遺伝子」の発現にリズムがあり、時計遺伝子の転写翻訳にフィードバック制御が存在する。また体内時計の刻む内因性のリズムの周期は、環境の周期とは異なるため、生物は体内時計を環境因子によって同調している。つまり、概年時計を制御する「概年時計遺伝子」は1年周期の発現リズムを刻み、夏や冬などの環境因子によって発現調節される遺伝子といえる。脊椎動物の概年時計はホメオスタシスの中枢である視床下部・下垂体に存在すると考えられているため、屋外の自然条件下で飼育したメダカから視床下部・下垂体を2週間に一度、2年間にわたって採材し、得られた2年間の時系列試料についてRNA-seq解析を行った。体内時計の発振には時計遺伝子がリズムを刻むことが重要であるため、バイオインフォマティクスを駆使して、膨大なRNA-seqデータから年周リズムを示す遺伝子を網羅的に同定した。また、体内時計がリセットされる際には、遺伝子発現が環境因子によって誘導・抑制されることが重要である。そこで夏および冬の刺激に暴露した際に、発現変動する遺伝子を網羅的に解析し、季節依存的に発現誘導・抑制される遺伝子を同定した。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した研究計画を計画通り実行できたため。
2019年度は新型コロナウイルスによるロックダウンや受託解析を依頼した中国の会社(BGI)の閉鎖などによって、やむなく繰り越しを行ったが、その後、解析が順調に進み、最終的に当初の計画通りの研究を展開できた。この間、1細胞レベルでの解析技術において飛躍的な技術革新があったため、当初の研究を前倒しで研究を進める。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 6件)
Nature Reviews Endocrinology
巻: 15 ページ: 590~600
10.1038/s41574-019-0237-z
Proceedings of the Japan Academy, Series B
巻: 95 ページ: 343~357
10.2183/pjab.95.025