研究課題
生物の体内には様々な周期のリズムを刻む内因性の計時機構(体内時計)が存在する。例えば、約1日のリズムを刻む「概日時計」や、約2時間のリズムを刻み体節の形成に関与する「分節時計」などがよく知られている。これら比較的、短時間の自由継続周期を示す体内時計の分子機構については、過去数十年の研究によって大幅に理解が進み、概日時計の分子機構の解明に対してノーベル賞が授与されている。一方、繁殖活動や渡り、冬眠などのように、動物の様々な営みには季節のリズムも存在する。鳥類や哺乳類、あるいは昆虫など、いくつかの動物においては、概ね1年の内因性のリズムを刻む「概年時計」が存在することが示されている。人類は有史以来、生物の示す一年周期のリズム現象に魅了されてきたが、「概年時計」の研究には膨大な時間がかかるため、ほとんど手付かずで極めて挑戦的なテーマである。我々はこの謎に取り組むべく、屋外の自然条件下で飼育したメダカから視床下部・下垂体を2週間に一度、2年間にわたって採材し、得られた2年間の時系列試料についてRNA-Seq解析を行ったところ、年周リズムを刻む遺伝子(季節変動遺伝子)を同定することに成功した。本研究ではこれらの季節変動遺伝子が約1年のリズムを刻む仕組みを明らかにすることを目的としている。バイオインフォマティクスや最先端のトランスクリプトミクス解析を駆使することで当初の計画どおり、研究が展開している。
2: おおむね順調に進展している
同定した季節変動遺伝子について、Weighted gene correlation network analysis (WGCNA)解析を行ったところ、季節変動を制御すると考えられるハブ遺伝子を同定することに成功した。また、季節変動遺伝子の上流にエンリッチしているシス配列を同定するとともに、それらのシス配列に、結合しうる転写因子の候補を抽出した。また、これら見出した遺伝子の発現分布を明らかにするために、空間的トランスクリプトーム解析を実施するとともに、一細胞RNA-seq解析を実施した。これらの解析によって季節のリズムを生み出すと考えられる転写因子の候補を抽出することができたので、季節変動する遺伝子についてプロモーター解析を進めている。以上、当初の計画どおりにおおむね順調に進展している。
当初の計画通りに研究が進んでいるため、概年時計の分子機構の解明にむけて、計画されていた研究を推進していく。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 12件)
PLoS ONE
巻: 17 ページ: e0257967
10.1371/journal.pone.0257967
The Journal of Biochemistry
巻: 171 ページ: 501-507
10.1093/jb/mvab096
Scientific Reports
巻: 11 ページ: 21038
10.1038/s41598-021-00499-w
化学と生物
巻: 59 ページ: 369-376