研究課題/領域番号 |
20K20460
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
林 茂生 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (60183092)
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研究分担者 |
岩根 敦子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (30252638)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 昆虫 / 生物模倣 / 細胞外基質 / 外骨格 / 嗅覚器官 |
研究実績の概要 |
構造色、超撥水性などに代表される生物学的な機能的素材の形成機構を理解する事を目的として、昆虫(ショウジョウバエ)の嗅覚器官を覆うクチクラにおけるナノレベルの形態形成を研究した。嗅覚器官に見られる内径30nmの穴(ナノポア)は数nmの匂い分子の通過は可能だが大きなほこりやウイルスなどは排除する。ナノポアはクチクラの強靱性と内部環境を保護しつつ昆虫の超高感度な嗅覚受容を可能にする機能的構造である。我々が報告した小胞体分子Gore-texは嗅覚毛の細胞に特異的に発現し、その変異体ではクチクラ形成は正常なものの、ナノポアが失われ嗅覚の低下が見られる (Ando et al., Curr. Biol. 2019). 本研究ではキイロショウジョウバエを材料にナノポアの構築機構の遺伝的、発生学的および分子生物学的な理解を深める事を目的とする。2021年度はイオンビーム連続切削型電子顕微鏡(FIB-SEM)を用いた三次元的細胞内構造解析を用いて正常型個体とgore-tex変異体においてナノポアの発生過程を観察する事でgore-tex変異体におけるナノポア喪失がどのようなプロセスを経て起きるのかを追求した。構築した嗅覚毛の3次元構造からは細胞膜状にエンドサイトーシス中間体に類似した多数の膜陥入構造が確認され、細胞内膜小構造を介したて小胞体ネットワークにつながる不連続な膜経路を構成することが明らかとなった。また細胞内膜系を制御する分子を系統的に阻害する実験を行った所、細胞内膜系の正常なダイナミクスがナノポア形成に必須な事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノポアが形成される時期(蛹化後42時間)は外骨格最外層の外被が形成される時期に相当する。我々の過去の透過電子顕微鏡解析により外被は細胞膜から50-100nm離れた場所で起こる。嗅覚毛の外被はおよそ100nmの長さで外側に向けて湾曲した断片が連続して出現し、その後外被が連結して波形の構造を形成する事がわかっていた。この時期の嗅覚毛の微細構造をFIB-SEMデータの3次元再構築によって調べた。その結果、湾曲した外被の差異化点において頻繁に細胞膜が陥入した構造が見られた。これはクラスリンに被覆されたエンドサイトーシス中間体に類似していた。この結果は細胞膜の陥入が外被の湾曲をもたらすとする仮説を支持するものである。この結果を受けて以下の実験が進行中である。1)gore-tex変異体におけるFIB-SEM解析を行い、細胞膜陥入構造の有無を検証する。2)エンドサイトーシスに関わる細胞内膜器官の分布を正常個体とgore-tex変異体のにおいて超解像顕微鏡によって調べる。3)ゲノム編集法によりgore-tex遺伝子産物をApex2蛋白でタグした系統を樹立した。Apex2の酵素反応により電子顕微鏡レベルでgore-tex蛋白の局在を明らかにし、細胞膜ダイナミクスへの効果を検証する。これらの結果を総合することでナノポア形成の制御機構を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
FIB-SEMデータの取得は研究分担者の岩根チームリーダーと共同して行っているがコロナ蔓延で広島拠点への移動が困難になったことで実験が遅れている。さらに岩根チームは研究室の終了時期を迎えているため、それまでにデータ取得を完了すべく実験を急いでいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
広島出張によって行う予定であったFIB-SEm実験がCovid19蔓延により遅延している。また筑波の産総研においてヘリウムイオン顕微鏡を用いて行う予定であった観察実験も遅れることになったため次年度に予算を繰り越す必要が生じた。
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