研究課題
(1)2020年、2021年に採集した幼虫の種判別とRNAseq:2020年11月に、共同研究者である米国オハイオ州St Josef UniversityのKritsky教授らにより、Brood XIV、Brood XXIIの幼虫の採集が行われた。RNAlaterで固定されたサンプルの送付を受け、幼虫の種同定をqPCRを用いて行なった。幼虫サンプルの頭部からRNAを抽出し、mRNAのショットガンシーケンス(RNAseq)を行なった。2021年11月にも同様にKritsky教授らによりBrood XIV、Brood XXIIの幼虫の採集が行われた。このサンプルについては、年度末までに種同定および全RNAの抽出を行なった。(2)周期ゼミ新規ゲノムアセンブルのアノテーション:先進ゲノム支援により、Magicicada cassiniメス1個体のドラフトゲノムがアセンブルされた。このドラフトゲノムのアノテーション(反復配列領域の推定および遺伝子予測)を行なった。(3)17年ゼミにおける年齢別の遺伝子発現比較:2019年と2020年に採集された、M. cassiniおよびM. septendecimの異なる年齢(11、12、15、16年目)の幼虫について、年齢、齢数、眼の色、体重を考慮して遺伝子発現を比較した。5齢幼虫において、赤眼個体は16年目の幼虫のほかに12年目の一部の幼虫でも見られ、12年目の幼虫では、赤眼個体の平均体重が白眼個体より重かった。赤眼の幼虫は白眼の幼虫とは異なる遺伝子発現パターンを示し、特に神経系の発達に関わる遺伝子が高発現していた。その中には光受容に関わる遺伝子も含まれていたことから、赤眼の幼虫では光受容能力の向上が起こっている可能性があり、翌年の羽化に向けた準備が進んでいると考えられた。また、これまでに知られている昆虫の成虫への変態に特異的な遺伝子発現パターン(エクジソンの産生、幼若ホルモンの抑制)も見られた。これらの結果から、12年目、16年目の幼虫では、体重が重く赤目となった個体は成虫変態に向かう兆候をしめしていると推定された。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナ流行のため活動が制限され、野外調査の計画を変更せざるを得なかったが、米国の共同研究者の協力により最低限のサンプルを確保することができた。一方、全ゲノム解読に関しては、先進ゲノム支援の支援を受けて比較的高品質のドラフトゲノムが得られた。このゲノムを用いて遺伝子発現比較が進んだ。野外でのサンプリングに関しては当初計画より規模が縮小してしまったが、研究は期待通り進展しているといってよい。
2022年秋にBrood XIII, XIV, XXIIの幼虫調査をイリノイ州とオハイオ州で行う。米国共同研究者に協力を依頼するが、可能な限り日本から調査に赴き、米国の共同研究者とともに調査を実施する。2019年から2022年秋までに採集された17年ゼミ幼虫のRNAseqデータを比較解析し、赤目で示される成虫変態のタイミングが、幼虫年齢と体重によってどのように制御されているかを明らかにする。M. cassiniの全ゲノム配列とリシーケンスデータを用いて13年ゼミM. tredecassini・17年ゼミM. cassiniのゲノム配列比較を行い、幼虫期間の分化に関係するゲノム配列を探索する。
前年度に続き、新型コロナ感染流行のため、米国での野外調査が実施できなかった。このため、旅費に予定していた予算を使用仕切れなかった。次年度には、野外調査を実施する予定であり、残額についてはその旅費の一部にあてる予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Annual Review of Entomology
巻: 67 ページ: 457-482
10.1146/annurev-ento-072121-061108