研究課題/領域番号 |
20K20463
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中瀬 生彦 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40432322)
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研究分担者 |
萩原 将也 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 理研白眉研究チームリーダー (00705056)
上田 真史 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (40381967)
児玉 栄一 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (50271151)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エクソソーム / 細胞治療 / ゲル / 薬物送達 / 細胞標的 |
研究実績の概要 |
エクソソームは、生体を構成するほとんど全ての細胞から分泌される小胞(直径が約30-200 nm)であり、その内部には、microRNAや酵素等の生理活性分子が内包されている。分泌されたエクソソームは、血液や尿などの体液を介して各組織細胞に取り込まれ、上述の内包分子が移行することで細胞機能に影響を及ぼし、疾患を含めた細胞間情報伝達において重要な役割を担う。現在エクソソームは、リキッドバイオプシーにおける疾患診断を狙った技術開発が盛んに進められているが、加えて薬物送達におけるキャリアーとしての研究開発も世界的に注目されている。しかしエクソソームの薬物送達における高い優位性(免疫制御、細胞機能制御分子の天然・人工内包、膜タンパク質の構築、血液脳関門の通過等)の一方で、DDS観点からの低い細胞内移行性、繰り返し投与の必要性、及び、単離効率の低さといった問題点は未解決のままである。本研究課題では細胞治療を指向し、疾患制御に有用な機能性エクソソームを分泌する細胞内包ゲルシステムの確立を目的とする。目的エクソソームを分泌する母細胞をゲルに内包することで、エクソソームのみが分泌される“Box”システムを構築する。そして、本技術を基盤とした細胞治療法の開発を進める。前年度に続き、令和2年度において、アガロースゲルを用いて、エクソソーム分泌細胞封入体創製の最適化を行い、さらにオンデマンドに細胞標的能を有したエクソソームを分泌可能なシステム開発を押し進めている。詳細は「現在までの進捗状況」に示すが、エクソソームマーカータンパク質に結合する抗体等の機能性分子をゲル内に同時内包することで、分泌エクソソームに受容体リガンド等をオンデマンドにゲル内で結合させる新規技術構築を行なっている。狙った疾患関連細胞にエクソソームを標的化できる新しい細胞治療技術として、医療貢献性の高い基盤技術を達成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
課題1:エクソソーム分泌細胞のゲル内包技術の最適化 課題2:細胞内包ゲルからのエクソソーム分泌確認と分泌エクソソームの細胞内移行評価 エクソソームマーカータンパク質CD63-緑色蛍光タンパク質GFP融合配列を安定発現する細胞をゲルに内包することで最適化実験を行った。足場材料コラーゲンと混合したCD63-GFP HeLa 細胞をアガロース枠に封入し、細胞内包ゲルを作製した。ゲル濃度を変化させると、細胞内包体の強度や形態に影響を及ぼし、安定的に、そして細胞生存率の高いCD63-GFP発現細胞内包ゲルの構築に成功した。 前年度において、細胞ゲルから分泌されたエクソソームの細胞内移行性を確認したが、さらに本年度ではオンデマンドに分泌エクソソームへの細胞標的能をゲル内でできるように新しい技術を開発した。方法としては、エクソソームマーカータンパク質に結合する抗体等の機能性分子を母細胞と同時にゲル内に内包させることで、母細胞から分泌されたエクソソームに抗体等の機能性分子が結合された状態でゲルから放出されることを確認した。例えば、がん細胞への親和性が高いビオチンを抗体に化学結合させることで、ゲル内で分泌されたエクソソームの膜表面をビオチン化することに成功し、分泌されたビオチン化エクソソームが、がん細胞に効率的に取り込まれることを示すことに成功した。本手法は応用性が極めて高く、オンデマンドに細胞標的化に必要なリガンド分子等をエクソソームに結合させることができる画期的な手法だと考える。現在も引き続き、エクソソーム膜に付与する機能性分子のゲル内での滞留性に関する最適化を進めており、効果的な“カセット式”のエクソソーム機能化と分泌制御が可能な洗練されたシステム構築に向けて研究を展開している。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に引き続き、課題1:エクソソーム分泌細胞のゲル内包技術の最適化、及び、課題2:細胞内包ゲルからのエクソソーム分泌確認と分泌エクソソームの細胞内移行評価、特にがん細胞標的性の高い技術構築を進めるとともに、申請書の研究課題3:動物へのエクソソーム分泌細胞内包ゲルの移植と分泌エクソソームの体内動態・組織移行の評価を研究展開する。 これまでの研究において「研究課題1」と「研究課題2」で構築に成功した細胞標的性エクソソーム分泌ゲルに関して、担がんヌードマウス、ラット等の動物にゲル移植を行い(細胞内包ゲルの動物移植は、足場ゲルを用いたがん細胞の移植技術と同じ手法を用いる)、移植された細胞内包ゲルから分泌されたエクソソームの動物体内分布(近赤外蛍光タンパク質(例えばCD63-iRFP)内包系を用いた可視化)、と各臓器組織や移植がんへの移行性をin vivo蛍光イメージングで評価する。経時的な動物体内分布をin vivo蛍光イメージングで評価、組織切片も作製して、エクソソームの詳細な組織移行性を検討するとともに、得られたデータをフィードバックすることで、より洗練された技術構築を行う。既に動物実験前段階における炎症惹起に関わるin vitroでの試験を進めており、動物個体への毒性の低い材料準備と最適化を行い、上述の細胞標的が可能なエクソソーム分泌ゲルを用いた移植腫瘍への送達性とエクソソーム内包分子による細胞機能制御・治療効果に関する基礎的知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験(動物イメージング)に関して、in vitro実験による最適化の必要が生じ、次年度での継続実施になったため。実験材料の炎症系評価後に、次年度にて予算使用(蛍光プローブ購入)を行う。
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