以下3項目の研究を進めた。 (1)微生物cDNAをゲノムスケールでレンチウイルス・ライブラリ化:ヒト共生菌の代表例としての大腸菌、および哺乳類とはかけ離れたシグナル環境を有する極限環境微生物の代表例としての好熱菌などのゲノム資源を用いて、それらの網羅的cDNAを哺乳類細胞で発現可能なレンチウイルス・ライブラリに組み換えて構築した。 (2)微生物cDNAライブラリを用いた機能ゲノミクス・スクリーニング:以下の4段階で進めた。(A)多様なヒトがん細胞株に対して1細胞に1レンチウイルスが導入されるような実験系を確立した。(B)レンチウイルス感染後のヘテロがん細胞集団を免疫不全マウスに移植し、in vivo環境の選択圧のもとでclonal selectionを起こさせる系を確立した。(C)in vivo腫瘍のゲノムDNAを用いて微生物cDNA配列を標的とした次世代シーケンスを行い、in vivo腫瘍を構成するヒトがん細胞集団におけるポピュレーションの増減をカウントし、クローンの脱落あるいは増加を呈したcDNAクローンを抽出した。(D)微生物cDNAがヒト細胞内で引き起こすシグナル変動を詳細に解析した。 (3)スクリーニングからみえた細胞生物学的現象を新規がん治療標的として応用するための検証実験:スクリーニングで抽出された「ヒトがん細胞に細胞死・増殖抑制を起こす微生物cDNA」などの候補について、それらの微生物cDNAがヒト細胞内のホメオスタシスにどのような揺さぶりをかけ、どのような分子メカニズムで細胞死や増殖抑制などを引き起こしているのかを類推し、実験的に検証した。特にヒトには存在しないシグナル経路や代謝経路に注目し、従来のスクリーニング系では探索されることのなかった未知の生命現象を想定しながら、ヒトがん治療への介入ポイントを探索した。
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