研究課題/領域番号 |
19H05556
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
大山 力 弘前大学, 医学研究科, 教授 (80282135)
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研究分担者 |
畠山 真吾 弘前大学, 医学部附属病院, 講師 (10400136)
坪井 滋 弘前大学, 医学研究科, 研究員 (20526727)
山本 勇人 弘前大学, 医学部附属病院, 講師 (30532759)
盛 和行 弘前大学, 医学研究科, 助教 (40266903)
米山 徹 弘前大学, 医学研究科, 助教 (50587649)
橋本 安弘 弘前大学, 医学研究科, 准教授 (60322939)
石山 新太郎 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (60355021)
青木 昌彦 弘前大学, 医学研究科, 教授 (70292141)
米山 高弘 弘前大学, 医学研究科, 准教授 (90374834)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 中性子補足療法 / ドラッグデリバリーシステム / 血管内皮細胞 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
現行の癌化学療法の主要な問題点として、副作用の強い薬剤を全身投与せざるを得ないことが挙げられる。研究代表者のグループは癌の転移における糖鎖の役割に関する研究の過程で、腫瘍血管内皮細胞表面に特異的に発現するアネキシンA1(AnxA1)に結合するペプチド(IFLLWQR; IF7)を開発した。このIF7を抗がん剤と結合させることで腫瘍特異的ドラッグデリバリーシステム(DDS)を実現した(PNAS 2009, PNAS 2011)。しかし、多くの抗がん剤はIF7ペプチドとの化学的結合によりその薬効を失い、臨床応用を前にして頓挫していた。一方、次世代放射線がん治療法として有望視されるホウ素中性子補足療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)も大きな弱点を有している。現行のホウ素製剤(ボロノフェニルアラニン, BPA)では、腫瘍へのホウ素集積効率が非常に悪く、充分な抗腫瘍効果を得るために数十グラム単位のBPAの長時間大量投与を要し、広い範囲での臨床応用は困難である。BNCTの臨床応用にはホウ素分子を効率良く腫瘍特異的に到達させるDDS開発が必須である。このような経緯からIF7とBNCTの融合を思いついた。担癌マウスでの実験から、IF7結合ホウ素製剤(IF7-BPA,IF7-BSH)が既存ホウ素製剤に比べ、600倍の腫瘍特異的なホウ素集積を示し、中性子線照射による抗腫瘍効果も既存のホウ素製剤を凌駕することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究予定は、担癌マウスにおけるIF7-BPA、IF7-BSHの抗腫瘍効果を確認することであった。これまで、動物実験は京都大学の実験原子炉を使用してきたが、今年度から青森県量子科学センター(QSC)の加速器が本格的に稼働し、中性子源が本学の近くに確保できたことによって動物実験が予定通りに実施可能になってきた。当該年度は、マウス膀胱癌細胞MBT-2のみならず、ヒト前立腺癌細胞株PC-3,LNCaPでもIF-7BPA,IF7-BSHの抗腫瘍効果を確認できた。さらに、ヌードマウスの大腿部にヒト膀胱癌細胞YTS1を播種した腫瘍モデルにIF7-BPAを尾静脈投与(10 mg/kg)および腹腔内投与(10 mg/kg)し、尾静脈投与後40分後に中性子照射を行った。腫瘍の縮小率を計測し、治療効果を見ながら、1週間間隔で同様に薬剤投与し、中性子照射を行った。3回の照射後に最終的な腫瘍縮小効果を検証し、既存のホウ素製剤を凌駕する抗腫瘍効果を確認した。 以上の実験結果は当初の実験予定とほぼ同様の進行具合であることから、現在までの進捗状況は、概ね順調に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
IF7-ホウ素製剤の腫瘍特異的ホウ素集積性の解析:マウス担癌モデルを作成し、合成した IF7-ホウ素10核種(10B)製剤を尾静脈注射により、投与して、一定時間後に臓器を摘出し、腫瘍内ホウ素集積濃度をprompt gamma ray分析法によって解析し、ホウ素が腫瘍特異的に集積するか否かを既存ホウ素製剤と比較する。また中性子照射による抗腫瘍効果を最大限に高める投与後のホウ素集積時間を決定する。18Fラベル化IF7-ホウ素製剤のホウ素集積性のmicroPET-CTによるリアルタイムモニタリング:マウス担癌モデルを作成し、合成した 18F-IF7-ホウ素製剤を尾静脈注射により、投与して、microPET-CTによるリアルタイムモニタリングから、ホウ素が腫瘍特異的に集積するか否か、また中性子照射による抗腫瘍効果を最大限に高める投与後のホウ素集積時間を決定する。また我々は、前立腺癌や腫瘍血管内皮に発現する前立腺特異膜抗原(PSMA)に結合し、特異的に細胞内に取り込まれるDDSペプチドとして、L7を同定した。今後は、上記のDDSペプチドと10BやGdの複合薬剤による腫瘍特異的中性子捕捉療法のマウス動物実験をQSCにて実施し、革新的な高精度量子ビームがん治療法の創出を目指す。
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