研究課題/領域番号 |
19H05564
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾崎 倫孝 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (80256510)
|
研究分担者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
森田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 総括研究主幹 (60371085)
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 特任講師 (60706505)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
|
キーワード | 光操作 / 近赤外光 / ランタニド・ナノ粒子 / アップ・コンバージョン / 癌治療 / プログラム細胞死 |
研究実績の概要 |
どのプログラム細胞死を誘導することががん治療により適しているかを検討するための基礎的実験を行った。アポトーシス、パイロトーシスを含めた様々なプログラム細胞死を評価する実験により、新たなプログラム細胞死がより有効なターゲットとなる可能性が明らかとなった(ネクロトーシス、パータナトス)。 それぞれの細胞死の可能性を検討するために、更なる解析と評価を行った。上記4種類のプログラム細胞死の相互関係と細胞死誘導能の強弱を比較検討した。低酸素ストレスによる反応系をもちいて、カスパーゼを介したアポトーシス誘導、PARPを介したパータナトスあるいはMLKLを介したネクロプトーシスといった細胞死の相互関係を、細胞内シグナル伝達経路、細胞死の時間的経過と強度の観点から検討した。同一の刺激に対して、上記細胞死が様々なタイミングと強度で誘導されていることが明らかとなり、またそれら細胞死に関わる内シグナル分子を同定した。その結果から、まず、AIF分子活性依存的に細胞死を誘導するプローブの作製に着手した。 今後、青色光にて遺伝子発現を誘導するGal4-VVD-p65システムをベースとして、青色光により生体組織内でも十分に機能するだけの遺伝子の発現システムを構築し、細胞死誘導能を検討する。 同時に、ランタニド・ナノ粒子(LNP)のアップ・コンバージョンによる細胞内分子操作技術開発のための準備を進めた。近赤外光照射装置は、タイマーにより光照射時間をプログラムし、光強度調整可能なものを作製した。LNPは0.5-2.0マイクロメーターのものを作製し、培養ディッシュ底に固着させた、それに対して近赤外光を照射し、アップ・コンバージョンにより底面から培養細胞に対して青色光を照射することが可能となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)プログラム細胞死の解析:新たな形態の細胞死の検討を追加したため、当初の予定より若干時間を要した。最初に、どのプログラム細胞死ががん治療により適しているかを検討するための基礎的実験を開始した。まず、アポトーシス、パイロトーシスを含めた様々なプログラム細胞死を評価する実験を行ったが、さらにネクロプトーシス、パータナトスといった最近になり発見された細胞死の検討も追加した。それにより、当初の想定に反して、新たに発見されたプログラム細胞死が有効なターゲットとなる可能性が明らかとなった。そのため、細胞死誘導のより有効なターゲットとなる可能性を検討するために、更なる解析と細胞死の評価・比較検討が不可欠となった。中でも、特にアポトーシス、ネクロトーシス、パータナトスの3種類の細胞死の解析、生物学的意義の検討を優先して進めた。そのため、プローブ化のための予備調査を継続することとなり、若干プローブ作製のプロセスが遅れることとなった。しかし、新たに検討した細胞死は癌細胞死誘導のためのよりよいターゲットになりうる可能性があり、光癌治療法の開発にとっては重要な発見となった。 2)近赤外光照射装置の作製とランタニド・ナノ粒子(LNP)の準備:予定通りに進んでいる。ハード面での研究では、予定通りに近赤外光照射装置とLNPを準備できた。近赤外光照射装置は、タイマーにより光照射時間をプログラムし、光強度調整可能なものを作製した。LNPは0.5-2.0マイクロメーターのものを作製し、培養ディッシュ底に固着させた、これにより、近赤外光を照射し、アップ・コンバージョンによる青色光を底面から培養細胞に照射することが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
1)新たに発見した細胞死の生物学的な意義、他の細胞死と比較検討、細胞死前後の炎症誘導性に関して検討を進める。前者は抗腫瘍目的とした治療ターゲットとしてより優れた有効性・可能性の有無の確認をおこない、後者は治療による副作用の出現の可能性を検討するためにおこなう。 2)細胞内へ導入する光感受性プローブのデザイン・作製と検証。光照射システムを構築するにあたり、①青色光にて遺伝子発現を誘導するGal4-VVD-p65システムによるプローブ、②青色光を感受し二量体を形成するタンパク質CRY2およびCIBNを利用した分子活性化プローブをデザイン・作製する。 それらを細胞内に発現させ、青色光による分子操作を試みる。作製した光感受性プローブを、細胞内に一過性に導入し機能を確認後、最終的には安定導入を行う。様々なプログラム細胞死誘導プローブを作製し、もっとも有効なプローブを選定した後、小動物実験に進む。 3)令和元年度に作成した近赤外光照射装置を用いて、以下の検討を行う。①近赤外光をランタニド・ナノ粒子(LNP)に照射することにより、アップ・コンバージョンされ十分な強度の青色光を発するかどうかを確認する。②アップ・コンバージョンされた青色光が1)にて作製した光プローブを介して、遺伝子発現、蛋白分子機能操作することが出来るかどうかを検討する。③光刺激による細胞内分子の変化が起こるかどうかを確認した後、最適な刺激条件を検討する。つまり、LNPから青色光を二次的に発光させることで、培養細胞内に青色光を照射できるかどうか、そして青色光感受性プローブを細胞内で機能させることが出来るかどうかを検討する。さらに近赤外光照射の回数・時間・強度により、どの程度細胞内分子機能に影響するかなどの条件検討を行い、小動物実験に進む予定である。
|