研究課題/領域番号 |
20K20472
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾崎 倫孝 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (80256510)
|
研究分担者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
森田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 総括研究主幹 (60371085)
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 特任講師 (60706505)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 光治療 / ランタニド・ナノ粒子 / がん治療 / プログラム細胞死 / 光プローブ |
研究実績の概要 |
人工転写因子GAVPOを用いた青色光誘導性遺伝子発現システムの構築:青色光誘導性遺伝子発現システムの構築のために、ターゲット遺伝子を評価しやすいルシフェラーゼ遺伝子を使用した。Cos-7細胞、Hela細胞を用いて、この遺伝子を一過性あるいは安定的に遺伝子導入し、青色光照射によりルシフェラーゼ遺伝子が発現し機能するかどうかを検討した。青色光照射(BLI)を繰り返すことで、ルシフェラーゼ蛋白の発現と活性を確認することができた。BLI照射後2時間からルシフェラーゼ活性は発現し、8時間でピークを迎えその後減弱した。ルシフェラーゼの活性化は、少なくとも24時間持続した。 癌細胞死誘導のために有効なプログラム細胞死の探索:アポトーシス、パータナトス、ネクロトーシスの3つのプログラム細胞死にターゲットを絞り、HRK遺伝子、AIF遺伝子、遺伝子に対してmutantを作製し、COS-7細胞株に一過性に導入し細胞死誘導能を検討した。その結果、mutant MLKL遺伝子を導入したものが最も効率よく細胞死を誘導することを確認した。 青色光照射によるプログラム細胞死誘導の確認:上記の成果より、mutant MLKLによるネクロトーシスを癌細胞死誘導のためのプローブとして、青色光誘導性遺伝子発現システムに挿入し、さらに癌細胞に安定導入した(pEBMulti-Hyg/mMLKL)。細胞は、扁平上皮癌細胞株であるHela-Luc細胞(Luciferase安定導入Hela細胞株)を用いた。青色光24時間では細胞死誘導は明らかではなかったが、照射48時間後に明らかな細胞死が誘導された。 これらの検討により、生体内深部に到達した近赤外光は、病変部付近のLNPを介した青色光への変換により、LNP近傍のがん細胞のプログラム細胞死を誘導し光治療できる可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は、コロナ感染の持続・拡大により実験施設の使用制限がかかり細胞実験の遂行には予想以上に時間を要した。また、試薬・ディスポーザブル等の入荷困難な状況なども重なり、全体的に実験の準備に時間がかかり進行が遅くなった。 プログラム細胞死細胞死(アポトーシス、ネクロトーシス、パータナトス)誘導のためのmutant遺伝子をデザインし作製したが、細胞死誘導の効果を考慮し、より最適なmutant遺伝子作製を試みたため、当初の予定より多くのmutantをデザイン・作製するのに時間を要した。これら3種類の細胞死に対して、光プローブをもちいた動的な検討、分子生物学的な検討、生化学的な検討を行い、それぞれの細胞死の発現のタイミングと程度から、治療への応用可能性の高い細胞死を検討することが出来た。上記の理由により、プローブ作製・評価のプロセスが遅れることとなったが、新たな細胞死がより適切な治療ターゲットとなり得ると結論できた。 もっとも細胞死誘導効率のよかった遺伝子(mutantMLKL)を青色光誘導性遺伝子発現システムに挿入し癌細胞に安定導入した(pEBMulti-Hyg/mMLKL)。細胞は、扁平上皮癌細胞株であるHela-Luc細胞(Luciferase安定導入Hela細胞株)を用いて評価した。これらの実験は、ほぼ予定通りに進行した。
|
今後の研究の推進方策 |
細胞用の近赤外光照射装置を用いて、次の検討を行う。近赤外光をランタニド・ナノ粒子(LNP)に照射することによりアップ・コンバージョンされた青色光が、光プローブにより光操作出来るかどうかを検討する(その際、LNPは培養皿底に固着させるか、細胞とコンジュゲートして培養する)。それにより、LNPによりアップ・コンバージョンした青色光が細胞内分子を操作し細胞機能を制御出来るかどうかを確認する。 続いて、細胞死誘導のための遺伝子(mutant MLKL)を安定導入したHela細胞(扁平上皮がん細胞株)に対して、近赤外光を照射しLNPを経由した青色光による細胞死誘導能を確認し、細胞死誘導のための最適な条件を検討する(光照射の回数・時間・強度など)。 小動物実験:まず、小動物用の近赤外光照射装置を作製する。担癌マウスモデルは、ヌードマウス(あるいはSCIDマウス)に対して、Hela細胞株を皮下あるいは腹腔内に移植するものとし、経時的に観察し腫瘍が増大することを確認する。細胞死を誘導する光プローブを安定導入したがん細胞(Hela-Luc細胞)とLNPを、担癌マウスの皮下あるいは腹腔内に移植し、近赤外光の照射による光治療の可能性(腫瘍縮小効果の有無)を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度はコロナ感染対策により様々な制限がかかり、実験の準備・遂行には予想以上に時間を要した。とりわけ、試薬・ディスポーザブル等の調達に関しては、国内および海外において在庫がなく、調達にかなりの時間を要した。実験自体は出来る限り効率的かつ直線的に行ったが、試薬・ディスポーザブル等の調達遅れは令和3年度末まで続いた。同様に、近赤外光をアップ・コンバージョンさせるためのランタニド・ナノ粒子(LNP)の海外からの納品の遅れにより、光照射実験にも後れが生じた。 令和4年度は、最も効果的にがん細胞死を誘導する遺伝子をがん細胞株に安定発現させる(Hela細胞に対して、mutant MLKLを安定導入する)。また、細胞用の近赤外光照射装置を用いて、近赤外光をランタニド・ナノ粒子(LNP)に照射することによりアップ・コンバージョンされた青色光が、細胞死を誘導出来るかどうかを検討する(培養細胞にて)。光照射による細胞内分子の変化が起こすことを確認した後、近赤外光照射の回数・時間・強度により、どの程度細胞内分子機能に影響するかなどの条件検討を行う。これらの検討の後に、小動物実験に進む。 小動物実験に向けて、小動物用の近赤外光照射装置を作製する。細胞死を誘導する光プローブを安定導入したがん細胞とLNPを、免疫不全マウスに移植し、光照射によるがん治療の可能性を検証する。
|
備考 |
芳賀早苗、尾崎倫孝 「肝細胞における低酸素・再酸素化傷害 -光プローブを用いたプログラム細胞死(ネクロトーシス・アポトーシス)の解析」肝細胞研究会 ”研究交流”2021年
|