研究課題/領域番号 |
20K20472
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾崎 倫孝 北海道大学, 医学研究院, 学術研究員 (80256510)
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研究分担者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
森田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 総括研究主幹 (60371085)
芳賀 早苗 北海道大学, 医学研究院, 特任助教 (60706505)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 光治療 / ランタニド・ナノ粒子 / がん治療 / プログラム細胞死 / 光プローブ |
研究実績の概要 |
光イメージング技術を基盤として、新たな癌治療および診断法開発の可能性を探ることを目的とし、低侵襲で副作用の少ない治療法の開発を目指す。本研究では、近赤外光を「組織内に事前に送達したランタニド・ナノ粒子(LNP)」に照射することにより青色光に変換させ(アップコンバージョンにて)、低侵襲で深部病変まで効果を示す光治療法を研究する。光誘導性遺伝子発現システムを開発し、癌細胞にてプログラム細胞死を誘導する。 In vitroにおいて、LNPをもちいた青色光誘導遺伝子発現システムの条件検討を行った。青色光により確実に遺伝子誘導が可能であり、プログラム細胞死誘導にも十分有効であった。また、近赤外光・LNP・青色光を経由した遺伝子誘導も確認し、LNPを介した光治療は少なくとも細胞レベルで可能であることを確認した。 非癌細胞だけでなく癌細胞にまで広げて光遺伝子誘導条件の検討を行い、近赤外光とLNPにより変換した青色光による遺伝子誘導条件を確認した。癌細胞の中では、扁平上皮癌細胞株が高い感受性を示したが、扁平上皮癌は体表近くに発生することが多いため、光癌治療のよいターゲットになることが期待された。 また、光による癌細胞死誘導のための至適なプログラム細胞死の探索に関しては、アポトーシス、パータナトス、ネクロトーシス、パイロトーシス細胞死を誘導する候補遺伝子について実験し、非癌細胞・癌細胞株を対象に実験した。その結果、癌細胞でも有効に細胞死を誘導するターゲット遺伝子(MLKL)を選定することが出来た(パータナトス細胞死誘導)。癌細胞によってその効果に相違があったが、扁平上皮癌細胞に対してはより効果的であった。 青色光誘導性遺伝子発現システムをあらかじめ癌細胞に送達しておくことにより、近赤外光―LNPを介した青色光により、特定の癌細胞に対しプログラム細胞死を有意に誘導できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度、令和4年度は、コロナ感染の持続等の事情により、光照射機器、試薬およびディスポーザブル等の調達に予想以上に時間を要したため、一部の検討で解析の遅延が生じた。その後、令和5年度まで研究自体は当初計画の通りに進めているが、研究を進めるにしたがって、癌細胞死誘導のためのターゲットとなるプログラム細胞死の可能性が広がり、予定よりも広範なプログラム細胞死を対象にして解析をすることになった。これにより有効な細胞死誘導遺伝子を決定するための追加のプロセスが必要となり、当初の予定より若干多くの時間を費やした。この検討の結果、最終的に最適なプログラム細胞死を選び出すことが出来た。 さらに、導入する細胞を非癌細胞以外に癌細胞にも広げ、種々の細胞による細胞死誘導効果の比較評価も検討することができ、細胞死誘導効率に相違があることも明らかになった。これにより、どのような癌細胞にて、どのようなプログラム細胞死を誘導することがもっとも有用な方法であるかを決定することが出来た。実際に光治療に応用する際の癌腫・臓器の選択に役立つ知見が得られ、さらに広く様々な癌細胞を検討する必要性も出てきた。 他方、光照射システムの検討時に、光照射部位の温度上昇が観測されたため、引き続き光照射による細胞への影響(細胞傷害性を含めた)および光照射条件の検討を進める必要性があると考えられた。 以上の通り一部の検討は前述の理由で遅延しているものの、臨床応用に向けた新たな知見・条件を決定することが出来、また臨床応用への可能性を期待させる結果を得ることが出来た。 このような状況で、本研究課題は当初の予定に沿って進捗しているが、全体的な解析にはやや遅れが出ているため、研究の進捗としては「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究の最終段階として、次の項目について研究を進める。ⅰ)「LNP」と「青色光感受性プログラム細胞死誘導型遺伝子を導入した癌細胞」のコンジュゲート培養系における、近赤外光照射による癌細胞死の誘導、ⅱ)担癌マウスモデルによる癌細胞治療実験(抗癌作用と副作用の検討、至適光照射条件、温熱効果の検討)。 ⅰ)「LNP」と「青色光感受性プログラム細胞死誘導型遺伝子を導入した癌細胞」のコンジュゲート培養系における、近赤外光照射による癌細胞死の誘導:あらかじめ、癌細胞(Hela細胞、扁平上皮癌細胞株)には光誘導性遺伝子(MLKL)を安定導入しておく。LNPとHela細胞のコンジュゲートを作製し培養する。その後、無光、青色光および近赤外光照射を行い、細胞死誘導効果を比較検討する。LNP・細胞比、青色光および近赤外光照射条件(強度、頻度、期間)、細胞死の程度を検討し、マウス実験を行う際の条件を検討する。これまでの研究で、光照射による照射部の温度上昇が観測されているため、光照射による細胞への影響を検討し、癌治療に有用かどうかを検討する。 ⅱ)担癌マウスモデルによる癌細胞治療実験:①プログラム細胞死誘導遺伝子(MLKL)を安定導入したHela細胞株とLNPをコンジュゲートし、ヌードマウスに腹壁側の皮下(および肝被膜下)に移植して担癌マウスモデルを作製する。②数日に一度の頻度で腹部より光照射を行い(近赤外光照射あるいは青色光)、癌の縮小効果を経時的に評価する。その際、光照射よる遺伝子操作の効果および温熱効果も併せて検討するものとする。動物モデルでは、細胞とは光照射の条件が異なってくる可能性があるため、有効な効果が得られない場合は、適宜コントロール遺伝子(ルシフェラーゼ)を利用し、条件検討を進める。 これらの検討により、癌細胞のプログラム細胞死を誘導する光治療システムの基盤を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度、令和4年度は、コロナ感染対策により様々な制限がかかり、実験の準備・遂行には予想以上に時間を要した。とりわけ、機器の調整および試薬・ディスポーザブル等の調達に関しては、国内および海外においても在庫がなく、調達にかなりの時間を要したことで実験装置の作製、解析作業の一部に遅延が生じた。これらに影響の出ない解析は計画に基づき進められた。 癌細胞死誘導のためのプログラム細胞死(ターゲット)の探索においては、これまでの研究結果より、より広い範囲の細胞死(アポトーシス以外の細胞死)に着目する必要が生じた。また、細胞種による感受性の違い、あるいは光照射による細胞への温熱効果を検討する必要も生じた。これらを追加的に検討した結果、研究計画の次項目への進行が遅延した。 以上の理由から今年度未使用の研究費が生じたが、これを使用して本年度できなかった解析を次年度に行う。 これらの検討により、次年度中に癌細胞のプログラム細胞死を誘導する光治療システムの基盤を作る。
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