社会性に関する問題(社会行動異常)は、自閉スペクトラム症(ASD)をはじめとした発達障害の主症状の一つである。我々は、化学物質曝露マウスや社会隔離 経験を受けたマウスの中で、行動表現型と脳活動パターンがASD当事者に類似する「環境要因ASDモデルマウス」を見出した。本研究では、これらのモデルマウスを利用し、環境要因によって生じる社会行動異常のバイオマーカーを同定することを目的とした。採血の難しい乳幼児に対応するため、唾液試料からのバイオマーカー測定を実現し、社会医学、看護学及び関連領域に貢献することも目指した。本研究では、マウスの社会行動異常を基準として、ヒトとの種間比較によりバイオマーカーを同定する戦略をとった。化学物質の胎仔期低用量曝露により社会行動異常を表出しているマウスと、社会性の問題やコミュニーションの障害をもつヒトの共通項を検出するトランスレーショナル研究戦略をとることで、バイオマーカーの絞り込み作業を行った。昨年度に引き続き、モデルマウスの脳および血液中のRNA発現解析を行い、有意に発現変動するRNAを複数同定した。昨年度と併せて6つのモデルマウスのバイオマーカー候補と行動表現型との対応についての比較を行い、分子の絞り込みを行った。環境中化学物質曝露マウスを含む6つのモデルマウスに共通する遺伝子を複数同定した。ヒトバイオマーカーの抽出精製方法の開発を行うとともに、血液中バイオマーカーと唾液中バイオマーカーの対応づけを行った。動物とヒトの種間比較もあわせて行い、相関を示唆する遺伝子を同定した。ヒト試料の例数を増やし、検証を進める必要があることが強く示唆された。
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