研究課題
本研究の目的は「仮想身体であっても,それを自分が主体となって運動させることに成功し,かつ運動感覚を知覚すると報酬系神経回路が賦活する」という仮説を明らかにすることである。本研究が達成されれば,脳卒中などの中枢神経障害により感覚運動麻痺を呈する患者のリハビリテーションに当該研究手法を適用した場合の効果機序を解明することにつながり,治療として新しいアプローチを開拓できる。このように本研究は,脳卒中などの中枢神経障害により感覚運動麻痺を呈する患者のリハビリテーション,あるいはスポーツなどで運動学習する過程において,ヒトが“報酬”を感じることの本質を科学的に理解するための挑戦的研究である。2019年度は健常被験者で以下(a)および(b)の実験を行なった。(a) 認知心理学実験(仮想身体の運動を観察することでKiNvissを誘導できることを確認):MRI実験を行なう環境に合わせて被験者をトレーニングし,仮想身体の運動を観察することでKINVISが知覚されるようにした。(b) 脳波計測認知神経科学実験(EEG駆動型KiNvisシステムで運動主体感誘導の確認):MRI室のEEG-fMRI同時計測で使用する脳波計と同じ多チャンネル脳波計を使用し,次の実験へ進む前段階実験室モデルとして実施した。被験者が手指を伸展させる運動イメージを脳内再生することで,観察している仮想身体が運動するシステムを用いた。このシステムを用いて,被験者の運動主体感が生じた場合と生じない場合における脳活動の相違についてEEGデータを解析した。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は,健常被験者を対象に,運動イメージを想起したタイミングで仮想身体を用いた視覚刺激で運動錯覚を誘起させることにより,自分の意図に基づいて自己身体の随意運動を行なったかのような感覚(運動主体感)を生じさせた。このとき,タイミングや仮想身体の異なる条件を設定し,脳波変化を比較した。この実験では,運動主体感の出現に伴って視覚刺激後0-1000 msにおける特定の周波数帯域の脳波に特徴が表れることを示した。このように,計画通りに実験が進行しており,成果に結びつくことが確信できるデータを得ることができた。そのため,順調に進展していると評価できる。
当初から計画していたように,機能的磁気共鳴画像法を用いた実験へと進める。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
Experimental Brain Research
巻: 237 ページ: 3233~3240
10.1007/s00221-019-05665-1
巻: 237 ページ: 3485~3492
10.1007/s00221-019-05693-x
Frontiers in Systems Neuroscience
巻: 13 ページ: 1~14
10.3389/fnsys.2019.00076