研究課題/領域番号 |
19H05577
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大澤 幸生 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20273609)
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研究分担者 |
早矢仕 晃章 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80806969)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2025-03-31
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キーワード | 階層エントロピー / 画像の特徴抽出 / 地震データ / 社会・経済データ |
研究実績の概要 |
市場、都市、自然といった対象システムにおける注目すべき構造的変化を抽出し、その変化の要因や影響を説明するための汎用的なデータ分析と可視化の技術を構築することを目指している。局所(小スケール)および大局(大スケール)の注目すべき変化を捉え、上下レベル(すなわち大小スケール)の領域間 の関係性を可視化することにより、巨視的変化の微視的原因、微視的変化の巨視的原因というように、対象システムの変化の原因や事後に想定 されるシナリオについて、上下レベルのスケールを横断した説明を支援する階層型ネットワークの可視化技術を開発している。これにより、対象システムについて様々なスケールで捉えるマルチスケール手法にとどまらず、上下レベルのスケールの領域を連結することにより、個々の事象に及ぼす大局的変化の影響、システム全体を揺るがす本質的な局所の変化が説明できるようにすることを目指している。 特に、2019年度までには、地震データ、株式データへのエントロピー計算とその階層化の研究に加え、具象的あるいは抽象的な絵画における特徴的構造の発見にも拡張可能な計算モデルへと発展させた。また、多階層の情報として領域の異なるデータを連結して扱うようなデータ利活用技術の開発を並行して進めた。この過程において、複雑な階層構造を把握するため、データ成分の選択と結合に関する技術を含めて発表実績を生んだが、そこで選択したデータの分析に踏み込む本研究の中心的な成果としては、柔軟な境界を持つコンポーネントを有するデータへの適用手法や、対象データのうちデータの値に基づいて分割される領域(コンポーネント)を条件とした条件付きエントロピーなど、その後の進捗につながる有意義な計算モデルを生み出したことが重要な実績である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、多階層の情報として領域の異なるデータを連結して扱うようなデータ利活用技術の開発を含めつつ、地震データ等に対する大澤独自の地域依存エントロピーの計算とそれによる変化説明手法を一般化する作業を行い、基本的な計算モデルの拡張と改善を行った。この中で見出した方法としては例えば、地震発生地域などのような事象発生の前提領域を条件とする事象の条件付き確率から求めるエントロピーに対し、逆に対象とする事象(地震など)の発生を前提にその発生領域のうちいずれか(地震発生地域など)が発生するという条件付き確率から求めるエントロピーを併用する手法を開発した。これによって、複数の領域にまたがる事象の構造的変化を把握することができる。この成果は予算とともに翌年度に持ち越して推進し、グラフエントロピーの階層化の研究をパラレルに進めた。 これらをまとめると、①複雑な階層構造を混乱なく生成するためのデータセットおよびデータ成分の選択と結合に関する技術、②柔軟な境界を持つコンポーネントを有するデータ(画像、社会・経済ネットワーク、地図など)へ適用可能な計算モデル、③対象データのうちデータの値に基づいて分割される領域(コンポーネント)を条件とした条件付きエントロピーの考案と実験に進んだこと等が有意義であると考えているが、対外発表は①の周辺にとどまり、②③については部分的に次年度に持ち越して推進した。
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今後の研究の推進方策 |
今後においては、画像やグラフなど多様な形態で表現可能な構造データなどに、適用可能な手法の開発作業を展開したい。画像については、絵画等を対象として、コンポーネントの自由な境界形状に対しても適用できる階層型エントロピーの基本的な計算手法を2019年度に開発したので、複雑あるいは奔放な構成の画像について構造的な特徴を把握できる可能性が広がった。その実験を進めてアルゴリズムの改良を進める。 また、2020年度は階層的なグラフとして表現できる構造を潜在的に有するデータについても対象とし、連続的な距離空間で定義されるクラスタのみならず、離散的な階層型グラフの連結成分をもとにシステムの本質的な構造を捉え、その設計・制御に資するような知識を発見する手法をめざす。方法としてはグラフ学習の拡張にとどまらず、ネットワーク生成過程を考えることによって、階層構造のうち垂直方向および水平方向にに分割されたサブグラフの領域間で活性を伝搬させるような構造体のダイナミクスモデルまで開発する。 これによって、複雑システムの階層性抽出、変化の発見と説明、さらにそれらの社会現象の説明への拡張を行うこととした。社会全体に対する政策設計、および個々人が「自分ゴト」として意図して行う行動や安全安心な社会生活のスタイルの発見もめざしたい。
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