研究課題/領域番号 |
20K20482
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大澤 幸生 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20273609)
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研究分担者 |
早矢仕 晃章 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (80806969)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 階層エントロピー / 系のダイナミクス / 変化の説明 / 感染拡大 / 金融市場 / マーケティング / 特徴概念 |
研究実績の概要 |
本研究は、昨年度まで写真や絵画を対象にしつつあったが、研究代表者の本来の関心に即した対象として①ウィルス感染拡大 ②金融市場 ③データエコシステム ④知識を普及させる社会活動 などを含めて進展させている。これらの応用対象領域におけるターゲットはそれぞれ、人の社会生活にとって欠かせない構造体だといえる。対象領域が変わると全く同じアルゴリズムでは通用しないものの、その基礎において本研究の階層型エントロピーの有効性を検証してきた。 昨年度までに、階層エントロピーを求める際に、対象空間全体を区切る領域の形状を、与えられた軸に沿うのではなく柔軟な境界を用いる手法について提案してきたが、さらに、a. 各領域ごとにクラスタに分けられることによるエントロピーを求めその集計として対象空間全体のエントロピーとした値(スケール依存エントロピー)を得る方法に加え、b. 各クラスタが複数の領域をまたぐことによるエントロピー(領域間連結性)を求める方法を提案した。 このうち、aについては対象の問題における情報空間から適切なスケールで領域を分割するような応用研究から、自然現象(地震等)・経済現象(経済指標の変化の共起性など)における有益な知見を得てきた。一方、多様な経済指標の変化の連結性を示すネットワークにおいて、aのエントロピーのみならず株価や国債価格などの意味的領域で分割してbをaを組み合わせて計算される値を用いることによって、金融市場の変化を検知するのみならずその原因説明が可能となることが分かった。この効果は、金融業界において実際に投資を行っているプロへのヒアリングによって定性的にも確認されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
深いレベルまでの多様なスケールの階層についてエントロピーを連動させることによって、対象の構造および構造変化を抽出する手法については進捗が予定よりやや遅いが、それは浅い階層の構造について階層エントロピーと層間の連動を研究する研究の重要性に気づき、想定より顕著に進めているためである。例えば、COVID19の感染拡大については、ワクチン接種速度の各地域への分布に基づく条件付きエントロピーに基づき、全地域への均等な分布による接種が効率的に感染抑制をもたらすことをシミュレーションによって見出した。この法則は、接種量の合計が小さい範囲では地域間の移動バランスが崩れる一方で、都道府県間の接種速度の分布でも、それより階層の低い市町村間の分布でも成り立つことから、①細やかな均一配分 ②接種速度の全体量の増強の二つが可能となれば、人々の越境移動の自由度を高められるという社会的インパクトの高い知見を得た。 また、文脈横断的な多階層の社会ネットワークモデルを構築して感染拡大のダイナミクスをシミュレーションすることも試み、第6波から第7波へという感染の波の進展をおおむね予測することに成功している。 さらに、ユーザがデータから何を説明したいのかというイメージに基づいて階層性の持ち方、領域の分割の仕方、クラスタの取り方を決めることが重要であることから、特徴概念(Feature Concept:FC)なる考え方を考案し、データ連成イノベーションの基本手法として実験を展開している。これらは、社会情勢に応じて代表者がかかわった貢献活動(内閣官房における感染症のAIシミュレーションプロジェクトや地域連携など)に本研究を適用した中で得られた、予定外の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの応用領域を中心としつつ、データ利活用にかかわる知識を普及させるような社会活動等を対象に含めて研究を展開する。 まず、上記のスケール依存エントロピー(a)と領域間相互作用(b)を組み合わせた変化説明は金融分野における投資等を応用として成功しつつあるので、これをひとつの数理モデルとして確立する。 また現在挙げつつあるの最新の成果としては、マーケティングにおいて新規商品の人気度が広まる過程や、政策への賛成または反対の集団が確定してゆく過程において、多階層の構造を持つエントロピーの変化の分析を利用すると社会スケールでの急速な変化が早期に検出可能であることを見出している。現在は、この知見をさらに検証して発表準備中である。さらに、文脈横断的な多階層ネットワークを構築し感染拡大のダイナミクスをシミュレーションする技術も、研究者以外のユーザが使える洗練度で実走したので、スケール横断から文脈横断を統合する手法へと展開してゆく。 そして、以上の進展よりも抽象度の高い位置において開発しつつある先述のFCのさらなる改善によって、データに直接触れないような人でも見たい構造の概形を描くことができることが分かったため、各階層ごとの「ユーザが見たい構造図」を描き、これにマッチした階層エントロピーの値をスケール横断的に組み合わせて用いる手法を開発してゆく。
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