研究課題/領域番号 |
19H05588
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 嘉浩 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (40192497)
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研究分担者 |
宮武 秀行 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (50291935)
秋元 淳 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (80649682)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | PD-1 / 低分子阻害剤 / 進化分子工学 / 多価リガンド化 / 高分子化 / 金ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害剤は、癌治療に免疫療法を確立する画期的な発見、発明である。しかし、用いられる抗体医薬は、高価なためにそれにともなう様々な問題点も指摘されている。もし、低分子医薬の延長で抗体医薬に匹敵する高活性の医薬ができるようになれば、医学への貢献は非常に高い。 本研究では、これまで不十分な活性しか得られていなかった低分子医薬候補を、基材としてこれを高活性化することを目指す。まず、免疫チェックポイントのPD-1/PD-L1相互作用に絞り、まず、その阻害剤効果をアッセイできるようにした。基材となる低分子化合物は、天然化合物バンクからあるいはドッキング・シミュレーションにより探索するとともに、PD-1/PD-L1の阻害化合物候補として、ブリストル・マイヤーズ スクイブ (BMS) 社から報告されている、ビフェニル構造を基礎とする低分子化合物(BMS-X)を用いた。 第一には、試験管内進化分子工学を駆使することによって、探索されるあるいは報告された低分子化合物をペプチド鎖で拡張し、標的との相互作用点を増加させ、より強く相互作用するように設計することを目指した。本年度は、その予備検討を行った。まず、ブリストルマイヤー社から報告されている低分子化合物(BMS-8)の改変を行うとともに、進化分子工学への適用を検討した。 第二には、低分子を高分子化することにより標的近傍での局所濃度を増し、高活性化することを目指した。分岐状のポリエチレングリコールおよび金ナノ粒子へBMS-8を結合すると、ともに結合量が増加するほど、阻害活性が増大することが明らかになった。これは、高分子化、金ナノ粒子への固定化により、BMSが多価リガンド化され、阻害活性が増大するものと考えられた。 今後もこのような検討を展開して低分子化合物を基にした新しい中・高分子医薬の一般的開発法を樹立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、基材となる低分子化合物の探索として、理研の化合物ライブラリーNPDepoからの探索を行った。数種類の候補がみつかり、現在、詳細を検討中である。またドッキング・シミュレーションによりスクリーニングも行い、実際の測定も行ったが、この方法では有望な候補は得られなかった。そこで、まずはブリストルマイヤー社から報告されている低分子化合物群(BMS-X)を用い、第一、第二の検討を行うこととした。 第一の試験管内進化分子工学のために、BMSの誘導体合成やペプチド誘導体などの予備的検討を行った。まず、BMS-8化合物の誘導体を合成したところ阻害活性の増強が観測された。BMS-8のペプチド結合可能型であるXに、in silicoでのドッキング・シミュレーションにより得られた様々なアミノ酸を結合したamino-Xを役30種類ほど調製した。その結果、Xの阻害定数(1.5μM)はBMS-8の阻害定数(7.2μM)と比較して、約5倍向上したものの、amino-Xでは阻害効果の向上は観察されなかった。そこで、in vitroでの進化分子工学のためのBMS-アミノ酸を設計し、現在合成中である。一方、アミノ酸誘導体を進化分子工学プロセスに組み込むための予備的検討を行い、条件の設定に成功した。 第二には、BMS化合物を高分子と複合化したり、金ナノ粒子への固定化を行い、阻害活性を検討した。分岐状のポリエチレングリコールへBMSを結合すると単鎖に結合した場合より高い阻害活性が観測された。また、金ナノ粒子へBMSを固定化する場合も、結合量が増加するほど、阻害活性が増大することが明らかになった。このような高分子化、金ナノ粒子への固定化により、BMSが多価リガンド化され、阻害活性が増大するものと考えられた。 今後もこのような検討を展開して低分子化合物を基にした新しい中・高分子医薬の一般的開発法を樹立する。
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今後の研究の推進方策 |
第一の進化分子工学の方法論では、これまで開発してきたリボソーム・ディスプレイ法を用いる。これにより、既知の相互作用を起点にした拡張型ペプチドアプタマーの探索を可能にするシステムを構築する。ウエット系システムの開発の一方で、in silicoによるドッキング・シミュレーションにより、相互作用を強化できるペプチド配列を、 低分子化合物を起点として選び出す。ドッキング・シミュレーションでは、起点から両端に1個ずつアミノ酸を付加してゆき、相互作用が最大に なるアミノ酸配列を決定する(進化的in silico選択法)。決定したアミノ酸配列に従い、ペプチドを合成し、相互作用を検証する。 第二の高分子化では、高分子反応による導入ばかりでなく、低分子化合物に重合性基(ビニル基、グリシジル基)を導入し、高分子化することも行う。低分子化合物に重合性基を導入し、ラジカル重合あるいは開環重合で高分子化合物を得る。ビニル化合物を用いる場合には、水溶性が低いことが予測されるため、親水性モノマーとの共重合などにより、十分な水溶性を確保できるようにする。グリシジル基の場合には主鎖がポリエチレングリコ―ルとなるための水溶性が確保されると期待され、適宜エチレンオキシドとの共重合にすることにより、高分子化合物を得る。生体適合性の高いポリエチレングリコールを基材とする新しい高分子医薬として期待できる。また、生体高分子(タンパク質、多糖)への低分子化合物を高分子反応で導入することも行う。タンパク質としては、アルブミン、ゼラチンを、多糖としてはアルギン酸、キトサン、ヒアルロン酸などを用いる。
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