研究実績の概要 |
老化による免疫力(ワクチン効果)の低下は肺炎球菌が原因である呼吸器感染症増加による、高齢者の死因に繋がっている。肺炎球菌では多くの血清型が存在し、既存の肺炎球菌ワクチンではカバーできない血清型置換が問題となっている。さらなる問題点は現在ライセンス化されている注射型ワクチンでは呼吸器感染症を防ぐ上で重要な役割を担っている粘膜防御[抗原特異的分泌型(S)IgA抗体]が期待できず、免疫力が低下している高齢者では十分な予防効果を発揮できないことである。そこで、細菌やウィルスの抗原に依存しない、申請者らが開発した樹状細胞(DCs)を標的としたダブルシグナルシステム(CpG ODNとFlt3リガンドcDNAプラスミドの併用, CpG/pFL)の経鼻投与によって、高齢者の弱減化しているメモリー粘膜免疫力(既存抗原特異的SIgA抗体)を向上させ、多種多様な呼吸器感染症から宿主を防御するための抗原非依存型広範囲呼吸器感染予防ワクチン開発の基盤構築を本研究申請の目的とする。本年度は、8-12週齢(若齢)のC57BL/6マウス(雌)に肺炎球菌(A66.1)を亜致死量(103)、経鼻肺感染させ、鼻洗浄液、血清を採取し、肺炎球菌の表面蛋白抗原(PspA)特異的抗体価をELISA法にて測定した。 亜致死量の経鼻肺感染ではPspA特異的抗体を誘導できなかった。 そこで2回目の亜致死量をおこなったところ、鼻洗浄液中SIgA、血清中IgG抗体が誘導された。 これらは、記憶免疫を確立させる今後の本計画の遂行に重要な基礎データであり、大いに意義がある。現在、抗体価の減少を確認し、ダブルシグナルシステム(CpG/pFL,実験群)の経鼻投与によって、PspA特異的抗体価の上昇が認められるか確認中である。これらの実験によって得られるデータは本研究の中枢課題を明らかにするものであり、重要である。
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今後の研究の推進方策 |
ダブルアジュバントシステムの経鼻投与のみで減弱化した記憶免疫が回復するか検討する。具体的に、肺炎球菌による感染、またはPspA経鼻ワクチンにより確立された記憶免疫が減弱化した時点でダブルシグナルシステムの経鼻投与する。1-2週間後に、鼻洗浄液、血清を採取しPspA特異的SIgA,IgG抗体価を測定する。感染防御能を解析するため、2週間後にはA66.1またはクレードの異なる2種類の肺炎球菌を致死量、経鼻肺感染させ、その生存率を7日間観測する。また、ダブルシグナルシステムの経鼻投与後、EF3030(クレード1)による鼻腔内限局感染法によって鼻腔内に残存する肺炎球菌を測定する。 ダブルシグナルシステムはポリクローナルに免疫細胞を刺激して慢性炎症反応、アレルギー反応、自己免疫抗体の誘導を起こす可能性がある。そこで、上記の実験でCpG/pFL経鼻投与後採取した鼻洗浄液、血清中の抗原非特異的IgG抗体、IgE抗体をELISA法にて測定する。また、炎症性サイトカイン(TNF-alpha,IL-1, IL-6, IL-17)、アレルギー性サイトカイン(IL-4, IL-5, IL-9, IL-13, IL-33)をマルチサイトカイン定量キット(AimPlex)にて測定する。さらに血清中の抗核酸抗体やリウマチ因子IgG,IgM抗体をLBIS ELISAキットを用いて測定する。PBSのみ経鼻投与を対照群として上記の抗体やサイトカインが異常に上昇していないことを確認する。顕著な上昇が認められた場合は、それが一過性であることを確認するため、投与後2、4、6週間後に同様な解析を行う。
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