研究実績の概要 |
老化による免疫力(ワクチン効果)の低下は肺炎球菌が原因である呼吸器感染症増加による、高齢者の死因に繋がっている。、細菌やウィルスの抗原に依存しない、申請者らが開発した樹状細胞(DCs)を標的としたダブルシグナルシステム(CpG ODNとFlt3リガンドcDNAプラスミドの併用, CpG/pFL)の経鼻投与によって、高齢者の弱減化しているメモリー粘膜免疫力(既存抗原特異的SIgA抗体)を向上させ、多種多様な呼吸器感染症から宿主を防御するための抗原非依存型広範囲呼吸器感染予防ワクチン開発の基盤構築を本研究申請の目的とする。本年度は、C57BL/6マウス(雌)に肺炎球菌(A66.1)を亜致死量、4週間間隔で2回経鼻肺感染させ、最終感染より2週間後に、鼻洗浄液、血清を採取し、鼻洗浄液中SIgA、血清中IgG抗体の誘導を確認した。2、4、6ヶ月後に特異抗体を測定したが、抗体価の顕著な減少が認められなかった。そこで、PspAとコレラ毒素(CT)をC57BL/6マウスに経鼻免疫し、PspA特異抗体価を経時的に測定した。 抗体価の減少が認められた時点で、ダブルシグナルシステム(CpG/pFL,実験群)の経鼻投与したところ、PspA特異的抗体価の上昇が認めらた。これらの実験によって得られるデータは本研究の中枢課題を明らかにするものであり、重要である。現在、これらのマウスに肺炎球菌を致死量感染させ感染防御免疫が成立しているか確認中である。「Foxp1が老化免疫(ワクチン応答性の低下)に重要な役割を果たしており、CpG/pFLによって活性化されたNALT DCがこの発現の制御・調整している」という仮説を証明する第一段階として、タモキシフェン誘導型CD4-Foxp1KOマウスを作製した。
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今後の研究の推進方策 |
ダブルアジュバントシステムの経鼻投与のみで減弱化した記憶免疫が回復し、感染防御能が誘導されることを確認する。また、IgA欠損(IgAKO)マウスを用いて同様な致死量・経鼻肺感染および鼻腔内限局感染実験を行い、肺炎球菌特異的IgA抗体の役割を解析する。CpG/pFLによる感染防御が達成できない場合は1週間おきに2回CpG/pFLの経鼻投与を行う。 ダブルシグナルシステムはポリクローナルに免疫細胞を刺激して慢性炎症反応、アレルギー反応、自己免疫抗体の誘導を起こす可能性がある。そこで、上記の実験でCpG/pFL経鼻投与後採取した鼻洗浄液、血清中の抗原非特異的IgG抗体、IgE抗体をELISA法にて測定する。また、炎症性サイトカイン(TNF-alpha,IL-1alpha, IL-1beta, IL-6, IL-17)、アレルギー性サイトカイン(IL-4, IL-5, IL-9, IL-13, IL-33)をマルチサイトカイン定量キットにて測定する。さらに血清中の抗核酸抗体やリウマチ因子IgG,IgM抗体をLBISELISAキットを用いて測定する。PBSのみ経鼻投与を対照群として上記の抗体やサイトカインが異常に上昇していないことを確認する。顕著な上昇が認められた場合は、それが一過性であることを確認するため、投与後2、4、6週間後に同様な解析を行う。 CpG/pFL経鼻投与によって、若齢時にPspA+CTを経鼻免疫した老齢マウスのNALT CD4+T細胞によるFoxp1発現が抑制される事をFACS解析にて明らかにする。また、老齢マウスのNALTメモリーCD4+T細胞をコンジェニックマウスに移入し、その後、CpG/pFL経鼻投与を行い、移入細胞のFoxp1発現が抑制され活性化エフェクターCD4+T細胞へと分化することを明らかにする。解析や移入に十分な細胞が分離困難な場合は頸部リンパ節(CLNs)より細胞を分離する。
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