研究課題
超高齢化社会における2大疾患として、骨粗鬆症とアルツハイマー病などの認知症といった精神・神経疾患があげられる。どちらも加齢に伴うため、両者が併存する確率が高いと考えるのは容易であるが、近年、骨と脳・神経系が相互に関連しあう可能性が示唆されてきた。骨折は寝たきりに繋がり、寝たきりは認知機能の低下をもたらす。逆にリハビリテーションは認知症患者の記憶・学習能力を改善させるといわれている。しかしながら、これらの相互関連を分子レベルで説明できる現象はあまり多くない。本研究では、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβを介して、認知機能と骨代謝が密接に結びつく可能性について明らかにしようとしている。今年度はアルツハイマー病を自然発症する遺伝子改変マウスの認知学習能異常と骨代謝異常の関連を明らかにした。このマウスでは、生後6か月齢以降に行動異常がみられるが、脳内アミロイド斑の形成は行動異常の発症に先だって生後2か月以降から検出される。この時期を目印に、骨組織と骨代謝の詳細を経時的に解析したところ、脳内アミロイド斑の形成が検出されるより以前の、生後8週令で骨量が顕著に減少することを見出した。またこのマウスの骨組織にはアミロイドβ42の沈着が検出された。アミロイドβの産生には加齢による腸内細菌叢の変容とそれによるリーキーガット症状が関与していることが知られている。骨量減少をきたしたアルツハイマー病モデルマウスの腸管上皮バリア障害について検討したが顕著な異常は今のところ見られていない。
2: おおむね順調に進展している
理由本研究においては、脳・神経系と骨を結び付ける実態を明らかにすることが研究の最終目的となるが、近年提唱されている脳-腸連関に着目して研究を進め、リーキーガットや腸内細菌叢の変容が脳と骨を結びつける可能性についての解析に着手した。現在、結論に到達するに十分な症例を得られてはいないが、脳と骨に加えて、腸内細菌叢や腸管の研究分野の技術と知識を取り入れた研究に手を広げることができ、今後の研究の大きな手立てになると評価している。
当初の計画に従って、運動が脳・神経系疾患を改善させることをマウスレベルで証明し、その分子基盤の解明にも着手していく。具体的には、アルツハイマーモデルマウスのアルツハイマー病発症の有無に応じて、トレッドミルを用いた強制運動や、マウス臼歯を抜歯することによる無歯顎モデルを用いた力学的負荷の免荷が、認知学習能と骨量にどのような影響をあたえるのか、アミロイドβの沈着と骨代謝に着目してその詳細を解析していく。
骨構造解析のためのμCT装置が本研究施設には設置されておらず、他施設の装置を借らる予定としていたが、コロナ禍のために他施設への出入りが制限されて、予定通りに進まない部分があった。そのため、その研究計画に付随するin vitroの解析などが実施できず、次年度使用額として算出した。次年度は引き続き、実施できなかったin vitroの未解析の計画や、新たに立ち上げる力学負荷の免荷モデルの構築に使用する予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Rheumatology
巻: 60 ページ: 408-419
10.1093/rheumatolog
Journal of Spine Research
巻: 12 ページ: 538-538