研究課題/領域番号 |
20K20498
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
立川 愛 国立感染症研究所, エイズ研究センター, 室長 (10396880)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | T細胞免疫応答 / COVID-19 / 免疫老化 / 免疫多様性 / TCR |
研究実績の概要 |
免疫機能は加齢とともに低下することが知られており、感染症に対する防御能も年齢と共に低下する。我が国では健康成人で致死に至る感染症は稀であるが、インフルエンザウイルスなど高齢者において重症化・致死的となる感染症は多く、新たに出現した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、重症化の最大要因は高齢であり、オミクロン株の出現によりSARS-CoV-2の病原性が低下した現在でも高齢者では重症化リスクが高い。 T細胞応答は獲得免疫の中心的役割を担う。免疫システムは膨大な種類のT細胞を準備することで多様な病原体に備えているが、高齢者における免疫力の低下はそれぞれの細胞機能の低下に加えて、その多様性が減少していることに起因する。本研究では、T細胞の多様性に注目し、感染症に対する免疫力評価を行うことを目標とした。研究開始当初は幅広く様々な感染症を対象とすることを想定していたが、新型コロナウイルス感染拡大に直面した現在、COVID-19は高齢者にとって最も注意すべき感染症となったため、SARS-CoV-2に対するT細胞について詳細な研究を進めた。日本人COIVD-19回復者でのSpike, NucleoCapsidに特異的なメモリーT細胞応答について詳細な解析を行った。全ての回復者がSARS-CoV-2特異的T細胞を有しており、多様な標的部位を認識するSARS-CoV-2特異的T細胞が検出された。軽症者に比して重症者でより多様なメモリーT細胞が誘導されていた。日本人で高頻度にT細胞の標的となっている領域について、デルタ、オミクロン株でのアミノ酸変異がCD8+T細胞応答に与える影響は大きくないことを明らかにした。T細胞応答を決定するHLA型分布は人種によって大きく異なる。本研究で、初めて我が国でのSARS-CoV-2に対するT細胞応答の多様性について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始まもなく、SARS-CoV-2の世界的感染拡大のため、当初の目的であった健康な高齢者でのT細胞解析を実施するのが困難となった。一方で、COVID-19は高齢者で最も注意しなければならない感染症となったため、SARS-CoV-2に対するT細胞応答の詳細な解析を進めることは、本研究の当初の目的にかなうものであると考え、COVID-19患者、回復者の検体を収集し、研究を進めた。日本人集団でのSARS-CoV-2特異的T細胞応答に関する詳細な情報を得ることができ、順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19ではT細胞応答が重症化阻止に重要であることが明らかとなってきた。本研究で得られたSARS-CoV-2特異的T細胞応答に関する詳細な情報(多様性・標的部位・変異ウイルスへの対応)は、今後の我が国でのSARS-CoV-2に対する免疫力評価に資する情報であり、高齢者などにおけるワクチン接種戦略等を決定する上で活用することができると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本補助事業の目的をより精緻に達成するため、追加の解析を行い、論文・学会発表などを行うため。 また、年度末納品等にかかる支払いが、令和6年4月1日以降となったため。当該支出分については次年度の実支出額に計上予定である。
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