研究課題/領域番号 |
20K20505
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松井 健一 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (50505443)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | 自然の権利 / 水倫理 / 先住民族 |
研究実績の概要 |
2021年度は、自然の権利の変遷について主に歴史的背景から研究を行った。新型コロナ禍のため海外の調査予定地でのフィールド調査が不可能になった。その代替として国内での研究活動に集中した。日本では、1990年代に奄美大島のクロウサギをはじめとした絶滅危惧種を原告とする自然の権利訴訟が初めて起り、当時はイギリスの王族をはじめとした世界各地の有識者に大きく注目された。この訴訟の弁護士側の中心人物である日本環境法律家連盟の籠橋弁護士と会い、インタビューから当時の状況について、また弁護士の視点からの情報を収集した。次に、原告として中心的に関わった弁護団長の薗氏と実質的なリーダーシップをとった中原氏と奄美大島で会い、当時の状況について聞き取りした。両名からは、当時の資料も多くいただいた。また、聞き取りでは、原告側の意見や視点を知ることができた。これによって、弁護士からの視点と原告の視点が多少ズレていることも明らかになった。そのほかにデスクトップで得られる情報として、海外で出された自然の権利について調査した。特に、ニュージーランドのワンガヌイ川を法人とする法律を成立させた当時の法務大臣のインタビューを入手できたことは一つの大きな収穫だった。このインタビューで、この法律の背景がよく理解できた。特に、重要なのは、アメリカ的な自然の権利とは若干の違いがあることである。マオリ側の意見も入手できたが、それもニュージーランド政府の考えとは若干差異があることも明らかになった。また、エクアドルの憲法に自然の権利の追加条文が加味された経過についても資料を収集することができたが、詳しい情報は今後の研究活動で入手する必要がある。全体として、自然の権利に関する見解が多様化してきていることがトレースできたのは大きな収穫であり、思想の変遷を近々まとめることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、アメリカとニュージランド、オーストラリアで自然の権利の変遷について、フィールドを含めた調査をするはずであった。しかし、2年以上にもわたるパンデミックの影響で不可能となった。学会もオンラインのみでの参加で、体面による学会での研究者間の交流・意見交換も不可能となった。オンラインでの研究者交流は若干行なったが、この研究は現地での調査が重要であることを実感した。特に、初対面の相手にオンラインで詳しく聞き取ることは心理的に難しい。そのため、国内でできる範囲での情報収集が主となった。一方、国内での自然の権利に関する情報収集は、思いの外好転し、素晴らしいいくつかの出会いから想像しなかった内容の情報を入手することができた。特に、奄美大島におけるフィールド調査は大きな収穫となった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、研究目的の海外渡航についても若干の光が差してきた。そのため、万難を排して海外調査を敢行したい。特に、本研究の重要な部分となる水倫理と自然の権利の関連性について、オーストラリアの河川保全・文化の権利とニュージーランドのワンガヌイ川の実践状況について情報を収集する。オーストラリアでは、先住民族の視点を取り入れた文化の権利というアプローチから河川を保全する傾向がある。これについて、研究者との意見交換・情報収集を行う。可能であれば、関わっている先住民族からも聞き取りを行う。ニュージーランドは現時点では入国規制が厳しいが、規制が緩和されれば、ワンガヌイ川を管理する団体を訪れ、過去3年ほどの変化について聞き取りをする。また、奄美大島での調査も継続して行う予定である。特に、現在進行中の問題となっている嘉徳浜の護岸工事反対運動について関係者から聞き取りをする。この浜に流れ込む河川には、昨年度固有種で新種が発見されており、本研究の水と自然の権利のリンクにより関係深い事例となる。今年度は、アメリカで行われる環境史学会でこうした成果を発表する予定である。また、全体をまとめた著書の執筆も大幅に終わらせる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
過去2年以上にわたりパンデミックが発生している状況で、海外での研究活動が制限されてきた。本研究は、計画書にも明記したように、本研究に必要な予算は主に海外での調査のためであった。そのため、海外での旅費が使用できずこのような状況が生じた。しかし、2022年度については、海外渡航の規制がかなり緩和されてきており、可能な限り多くの海外調査を敢行する予定である。
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