研究課題/領域番号 |
20K20514
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
鈴木 雄治 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (90529851)
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研究分担者 |
酒多 穂波 中京大学, 心理学部, 任期制講師 (50804548)
小枝 達也 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, こころの診療部, 部長 (70225390)
渡辺 将樹 新潟大学, 脳研究所, 助教 (40345517)
植木 智志 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (90595117)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | エントロピー解析 / functional MRI / 学習障害 / 活動時 / 読字機能 |
研究実績の概要 |
発達性読み書き障害(Dyslexia)は、主に音韻処理に関する特異的な発達障害を呈し、約 2%弱の学童が困難な状況にあると報告されている。適切な早期治療介入の機会が増し一定の効果が見込めるようになったが、読字における脳活動の異常メカニズムは解明されていない為、より高次な学習である漢字の読字や書字に対する効果的な介入は困難な状況のまま残されている。本研究では、超高磁場MRI装置のもつ特性を最大限に利用した脳機能画像のエントロピー解析に着目し、安静時及び読書時における脳活動の解析方法の開発研究を進める。fMRIデータにはミクロな機能連結の状態を反映する情報が含まれており、信号時系列のエントロピー解析によってランダムネス(複雑さの度合い)を評価できる。7.0T-fMRIの高空間分解能及び高信号雑音比を最大限に活かした撮像方法を用いることにより、個々の到達レベルに合わせた「読み」といった複雑な活動時の脳機能の詳細な評価を可能にするものと考えている。我々が提唱する情報理論的観点からのエントロピー解析は、脳活動をダイナミックに捉えてDyslexia特有の脳活動の異常メカニズムの評価を行う試みで、これは世界で類のない独創性・新規性があり、そこから得られる研究結果はDyslexia 児のみならず学校教育をはじめとした社会全体に大きな影響をもたらすことが期待できる挑戦的な研究である。新たなる非侵襲的な解析方法の開発は、様々な医療介入に伴う異常活動部位やパターンの変化の検出に繋がり、Dyslexiaの客観的な診断方法の開発や効果判定のツールとなることが期待できる。これは、問題を抱える児童の社会的及び精神的困難さの理解や適切な環境・医療介入を与えることに貢献し、さらなる社会的状況の困難さの回避を可能とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までと同様に観察対象である学童児に対するコロナ感染症の拡がりのため、積極的な観察研究は困難であった。昨年度に成人ボランティアを中心に撮像を進め撮像方法を確定するとともに得られたデータをもとに解析方法の検討を進めることができた。今年度は、その撮像方法を用いて、まずは学童児(定型発達児)の撮像を開始した。成人に比して撮像は困難ではあったが、9歳から14歳の学童時における読字活動時のfMRIの撮像は可能になったことより、Dyslexia児の撮像を開始する。読字に関するタスクは「ひらがな」「単語」「短文」に固定してそれぞれの読字における脳機能の解析をすすめる。成人におけるデータから、読字における脳活動のエントロピーをボクセル毎にマッピングする解析方法の開発は順調に推移し、さらなる改良を進めて小児に適した解析方法の確立を目指す。 本年度の成果により、次年度から予定している読字における脳内のエントロピーの解析方法の確立しDyslexia児と定型発達児の読字における脳活動の違いを抽出することへの準備が整えられた
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今後の研究の推進方策 |
現在まで、撮像方法及び機能画像のタスクに関する検討は終了し、学童児(定型発達児)の撮像を開始した。エントロピー解析の分析方法の開発も概ね順調に推移し、従来のfMRI同様に、活動時のエントロピーをボクセル単位でマッピングできるようになった。 小児特有の撮像時における問題点を改善していくとともに、Dyslexia児と定型発達児の撮像を進めていき、Dyslexia児の読字における脳活動の相違を描出する解析方法の確立を進めていく。最終的にはDyslexia児の困難さを理解できるよう、脳機能メカニズムの解明および読字に対する困難さの客観的な状態評価(指標)を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響が、本研究の対象である学童時にも波及したため、撮像の進行がやや遅れてしまったため、そこに関連する費用や、撮像及び解析に必要な機材の購入がその分遅れてしまった。本年度は、今までの遅れを概ね取り戻しているが、昨年度までの影響が完全にキャッチアップした状況とは言えず、その分次年度への繰り越しの資金が生じている。また、感染状況を鑑みて、予定していた国際学会などの参加を見送ったことも次年度使用額が生じた原因の一つに挙げられる。
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