研究課題/領域番号 |
20K20521
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松田 康弘 東京大学, 物性研究所, 教授 (10292757)
|
研究分担者 |
池田 暁彦 東京大学, 物性研究所, 助教 (90707663)
久保田 雄也 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (30805510)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 強磁場 / 自由電子レーザー / シングルショット / X線 |
研究実績の概要 |
X線は物質の構造や電子状態を微視的に明らかにする優れたプローブであり、磁場中で起こる様々な量子現象を理解するために、強磁場環境下でのX線実験技術の開発は興味深く重要である。世界的に放射光X線とパルス強磁場を組み合わせて40テスラの実験が可能となっているが、現状の技術の延長では磁場の上限は50テスラ程度にとどまる。マイクロ秒の超高速磁場を用いれば100テスラ以上の超強磁場X線実験が可能となるが、X線の光源もシングルショットで十分な強度を有する自由電子レーザー(XFEL)を用いることが必須となる。 本年度、X線自由電子レーザーと100テスラ超強磁場発生装置の組み合わせに必要な要素技術開発のために、模擬的な磁場発生装置を使った予備実験の結果についてデータ解析を詳細に行った。その結果、マイクロ秒のシングルショット実験で十分なX線回折強度が得られ、磁場による構造相転移を捉えることが可能であることを証明できた、この結果はPhys.Rev.Research誌に論文発表した。 この成果を踏まえ、実際に100テスラ超強磁場発生装置に必要な具体的装置仕様を決定し、パルス磁場発生装置に必要な高電圧充放電パルス制御装置を製作し、既存のコンデンサーと組みわせて100テスラ発生可能となるシステムを構築した。実際にその装置を用いたXFEL実験をSACLAにて2021年5月25~28日に実施予定(課題番号2021A8063)である。磁場発生装置そのものの性能評価はすでに行い、約70テスラの磁場を安全に発生できる技術を確立した。100テスラ磁場発生は原理的に大きな破壊現象を伴うため、第1段階のXFEL実験としては比較的穏やかな破壊に抑制した磁場を用いる。研究計画における60テスラよりも16%程度強い磁場が発生できたことは期待以上の結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた100テスラ磁場発生装置に関しては、電源部分に関してはほぼ完成し、当初の予定通り研究が進行している。コイル部分については、磁場発生に伴う破壊の程度をできるだけ抑制し、かつ、できるだけ強い磁場を発生できる条件について調査した。その結果、現状では複数回の巻き数をもつコイルよりも、2~3 mm程度の直径の磁場発生空間を有する一巻きコイルの方が安定して磁場が発生できることが分かった。その際のコイルの破壊はコイル周辺の数十cm四方に限定され、周辺装置のへの機械的、電気的ダメージも認められないことを明らかにした。 現在X線実験に応用可能と考えている磁場は最高値が約70テスラであり、2021年5月に予定されているSACLAでの実験(2021A8063)に成功すれば、磁場強度では群を抜いて世界最高値を記録できる。予定している実験は、マンガン酸化物の磁場誘起電荷秩序抑制による結晶構造相転移であり、50テスラ程度において、直方晶から準立方晶へ変化が観測できると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
超強磁場中のXFEL実験を継続して行なっていく。初回の実験がまだ未実施であるが、実施後は、その結果を踏まえて実験装置を改良する。現在の70テスラから最高磁場の値を段階的に上昇させていく。一巻きコイルでは、内径を1 mm程度にすれば100 Tの発生が可能になると期待される。複数巻きコイルでは、磁場発生空間を広くとれる長所があるが、現段階の結果では機械的破壊の範囲がコイル内側にも及ぶため、今後、技術的改良を行う必要がある。また、対象物質の幅を広げ、70テスラ以上の世界最強磁場中X線実験の有効性を示していく。さらに、試料温度を変化させることができるように実験装置を改良し、広範囲の物質に適用可能にする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020B期はコロナ感染症の影響があり、自由電子レーザーを用いた実験を計画、実施できなかったため、実験で消費が見込まれた物品や、旅費などを次年度使用とした。2021年度は5月に実験を行い、さらに継続して実験を行う予定であり、経費の使用が見込まれる。
|