研究課題
X線は物質の構造や電子状態を微視的に明らかにする優れたプローブであり、磁場中で起こる様々な量子現象を理解するために、強磁場環境下でのX線実験技術の開発は興味深く重要である。世界的に放射光X線とパルス強磁場を組み合わせて40テスラの実験が可能となっているが、現状の技術の延長では磁場の上限は50テスラ程度にとどまる。マイクロ秒の超高速磁場を用いれば100テスラ以上の超強磁場X線実験が可能となるが、X線の光源もシングルショットで十分な強度を有する自由電子レーザー(XFEL)を用いることが必須となる。昨年度までにパルス超強磁場発生可能となるシステムを構築し、実際にその装置を用いたXFEL実験を兵庫県の自由電子レーザー施設SACLAにて世界最高の77 Tの磁場下でMn酸化物のX線回折実験を行った。さらに、低温環境の構築を行いCo酸化物のスピン転移による磁場誘起構造転移を捉えることに成功した。本年度はより安定に低温環境を実現するためのマイクロクライオスタットを開発し、SACLAにおいて、2022年6月17~20日(課題番号2022A8068)および、2022年10月18~21日(課題番号2022B8068)のビームタイムを使って、ブリージングパイロクロア化合物の磁場誘起構造相転移の観測を行った。現在、前年度までに得られているLaCoO3のCo酸化物のスピン転移、Pr(Y,Ca)CoO3のPrの価数転移とCoのスピン転移、の実験結果と合わせ3-4本の学術論文にまとめる予定であり、解析・考察を行っている。
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