研究課題/領域番号 |
20K20527
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
山田 真也 立教大学, 理学部, 准教授 (40612073)
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研究分担者 |
一戸 悠人 立教大学, 理学部, 助教 (30792519)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | X線検出器 / 超伝導検出器 |
研究実績の概要 |
宇宙精密X線分光において、超伝導遷移端検出器は次世代の非分散分光において重要なテクノロジーの一つである。超伝導遷移端検出器は、超伝導から常伝導に変化するときの抵抗値の飛びをセンサーとして用いることで、X線帯域でのエネルギー分解能において半導体検出器を超えるレベルにまで高めることができる。しかし、その動作温度は超伝導体が遷移する100mK程度と低く、極低温実験の様々な技術が必要になる。素子数を多くするためには、 少ない配線数で多くの画素を読み出すことが必要となり、信号線の帯域として、4GHzから8GHzの極低温HEMTアンプが増幅できる帯域を活用し、多重化された信号を復調して読み出す事ができる。将来の偏光観測やコンプトンイベントの活用などにおいても、多画素化は本質的に重要であり、これまでに約40画素を同時に駆動し、優れたエネルギー分解能の実現に成功した。読み出し装置の室温部分は、大規模なFPGAと1Gサンプル14bitのAD変換器が使われており、マイクロ波をダウンコンバートして帯域を狭めた後に高速でA/D変換を行い、高速で処理する設計となっている。波形を加工せずに十分に長く保存することで、ポストプロセスで効率的に処理できる検出器原理であるため、帯域を稼ぐための工夫も必要である。そこで、FPGAの中に設計すべきバッファと各種のノイズ評価もできるようなトリガーも検討し、その動作検証なども進めた。簡易的な放射線計測器を用いたX線の観測なども行い、性能評価も行い、予定通りに動作していることを検証することもできた。多画素の複数のトリガーイベントを処理する上での基本的な波形処理の標準的な動作は可能となり、機械学習も用いた波形弁別の効率的な手法についての研究も進めて、素性のよいパルスとそうでないパルスの特徴量を学習して自動的に弁別するシステムの動作検証も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
波形処理部分の概念設計は、概ね出来上がってきたと言える。読み出しシステム全体のスループットを概算して、バッファの規模を数ms程度に抑えて、複数チャネルのトリガーも考慮し、開発を単純化した結果、検証の見通しも良くなったと考えている。FPGAの内部ロジックは、従来のコードとのインタフェースの分界点を明確に設定したことで、実機を用いた検証においても、特にトラブルなく進めることができた。それに基づき、読み出し用のソフトウェアの設計も、TCPの通信部分をエミュレートする部分が有効的に働いて、読み出し用のソフトウェアの開発とデバッグも効率的に行うことができた。AD/DAのボードから擬似信号を生成して、FPGAの信号処理部を検証することができたことで、ハードウェアのトラブルなども簡単に検出し検証することができた。高周波の帯域において厄介となる信号の減衰を気にせずに開発を進めることができたことも大きい。これと同様の読み出し装置を用いて、X線の性能評価試験も順調に進み、比較的安定してエネルギー分解能の評価にも使えているので、概ね最低限の要素開発は成功したと考えている。データ解析の方法は、クロストークの影響はカロリメータの本質の関わる難しい問題であり、とくに多画素化を進めていく時には、エネルギー分解能やエネルギースケールの微妙な変化なども踏まえて、今後の解析の課題であり、物理的なメカニズムを明確化することが課題の一つである。マイクロ波の基礎開発に向けたハードウェア類の準備も進めて、アナライザの選定などを注意深く行い、揃えることできた。精密分光においては、特に宇宙応用においては、軌道上でデータを圧縮することも必要であり、機械学習を用いた波形弁別のシステムも考案して実証できたことも一つの大きな一歩であると言える。今後もFPGAやミドルウェアでの実装も意識して研究を進めていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
室温デジタル部の基礎的な設計と検証は順調に進んでおり、マイクロ波の設計部分を検証するためのハードウェアの調達も予定通り進んでいるが、今後の宇宙応用までを考えると、実際の応用においては長時間安定して動作するかどうかが重要であり、特に必要な電力をどのように最小化するかは検討事項である。ハードウェアの成熟度を高めてゆく、という意味では、現状のファームウェアを高めていくのが一つの方向性であるが、近年は高速のFPGAの進展が早く、現状のFPGAとAD/DAを分離した設計のものが今後も良いか、一体化型のチップを搭載したシステムがよいのかは、要検討事項である。FPGAなどの環境の変化は早く、現状の開発の枠組みは5年前の開発インフラに沿って考案したものであり、今後の進展を注視して、ファームウェアの選定には注意を払ってトレードオフを進める。高周波の帯域を単純に広げるには限度があるため、より効率的に帯域を使えるようなデータ処理の工夫やハードウェアの改良なども進めていきたい。概念設計としては、単純に高速読出しの開発と、リアルタイム性のよい動作設計など、両方の利用先を意識して開発を並行して進めることも必要である。また、多画素化に対応できるように、FPGAのリソースの最小化も進めていく必要がある。現実的なアプリケーションにおいては、コンプトン散乱や偏光イベントを弁別するために、クロストークの詳細なモデリングと検証が必要となり、多画素のカロリメータのクロストークや、クロストークによるエネルギー分解能やエネルギースケールへの影響なども詳細に調べていく必要がある。モンテカルロシミュレーションやその解析方法なども改良し、散乱イベントの処理方法や、最適なデータ処理方法など、ポストプロセスの設計開発も機械学習の近年の動向なども取り込んで、引き続き進めて行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
FPGAなどの室温エレキ部分の開発が順調に進む目処が立つまでに開発にやや時間がかかったことで、発注の目処が立つまでにやや時間を要したため、高周波数部品の納期が半導体不足によりやや遅いだけでなくて不定性が高いことから、次年度の納品に回すことにし、今年度の使用計画としては、高周波部品を組み合わせた室温デジタルエレキの動作試験と要素技術開発を進め、波形処理の中でのエネルギー分解能の改善と高レート耐性に向けた改良と開発を進める。そのための実験備品や計器類および打ち合わせ等の旅費や高周波に強い企業と連携した設計検証を進める。
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