宇宙におけるX線精密分光を実現するため、超伝導遷移端検出器が重要な技術とされている。この検出器は、超伝導状態から常伝導状態への遷移時に発生する抵抗値の飛びをセンサーとして活用し、X線帯域におけるエネルギー分解能を従来の半導体検出器の20倍にまで向上させることが可能である。しかしながら、その動作温度は100mK程度と極めて低く、高度な低温技術が求められる。素子数の増加を目指して、4GHzから8GHzの帯域を持つ極低温HEMTアンプを用い、多重化された信号を復調し、読み出すことが可能である。偏光観測やコンプトンイベントの活用を見据え、エネルギー帯域の拡大と多画素化が求められている。これまでの研究で、約40画素を同時に駆動し、優れたエネルギー分解能を実現してきた。現在は読み出し方式を改良し、約80画素を読み出せるシステムを構築し、信号の取得を確認した。読み出し装置の室温部分では、大規模なFPGAと1Gサンプル14bitのAD変換器を使用し、マイクロ波をダウンコンバートした後、高速でA/D変換を行う設計がなされている。これにより、簡易的な放射線計測器を用いたX線の観測を行い、予定通りに動作することを検証する性能評価も実施できた。さらに、多画素のトリガーイベントを効率的に処理する基本的な波形処理を可能とし、機械学習を用いた波形弁別手法の研究も進められた。次世代の室温読み出しのためのデジタル回路についても検討が行われ、組み込みCPUの選定から開発方法までを詳細に検討し、5Gの技術を用いた帯域拡大に向けたファームウェアのインタフェース設計も進めることができた。研究期間を通じて、超伝導遷移端検出器の技術の成熟化と応用性能の向上が進められ、次世代の読み出し方式への道筋がつけられた。X線観測や偏光観測との比較研究も十分に進展した。
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