研究課題/領域番号 |
20K20529
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
角野 浩史 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (90332593)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 質量分析 / イオン源 / 希ガス / 超高感度分析 / 局所分析 / レーザー抽出 / マントル / ダイヤモンド |
研究実績の概要 |
本研究の当初計画では、高速回転する磁気浮上型のローターにより希ガスをイオン源に集めてイオン化し、そのイオンのほぼ全てを質量分解能を損なうことなく検出器まで導く、ガス圧縮機構と四重極静電レンズを備えた画期的な電子イオン源を開発し、従来を遥かに超える高感度の希ガス同位体質量分析を実現することを目的としていた。しかし設計の際の検討により、高速で回転するローターをイオン源に組み込むと、バルブの開閉や地震などの僅かな振動により軸ブレが発生した場合に、ローターとイオン源がともに壊滅的に破損するリスクが明らかになったため、接合部に金属シールを採用した超低リークレートの磁気軸受型ターボ分子ポンプを質量分析計の分析管内に組み込む方式を採用した。 本年度はこのターボ分子ポンプを質量分析計に接続する予定であったが、研究代表者の異動に伴う実験室の移転と、移転先の実験室における漏水事故のために実施できなかった。 一方で今年度は、高安定化・高精度マルチチャンネル高圧電源と高速プリアンプを新たに希ガス質量分析計に導入することで、より安定した微量の希ガス同位体検出が可能となったために、やはり昨年度までに開発したレーザー局所加熱装置を用いて、様々な深さのマントルに由来する天然ダイヤモンドの希ガス同位体分析を実施した。シベリア産のダイヤモンドの分析からは、沈み込んだプレート由来の希ガスによる汚染を受けた大陸下マントルに、プルームによって深部からもたらされた始原的希ガスが寄与していることが明らかとなった。またブラジル産の超深部起源ダイヤモンドの分析では、いくつかの試料で深部マントル起源であることを示す、始原的なヘリウム同位体比とネオン同位体比が得られた一方で、アルゴン・クリプトン・キセノンに関しては沈み込みに由来する成分の寄与が顕著であり、マントル遷移層まで太古の沈み込みの影響が及んでいることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究代表者が年度はじめに学内で異動し、それに伴う実験室の移転を7月に実施した際に、本研究で改良を施す予定であった希ガス質量分析計を一旦解体し、移転後に再組み立てする作業に時間を要した。さらにその移転作業中に、実験室に研究者が入居する前から設置されていたドラフトチャンバー下の水道管が老朽化により漏水し、水没して使用不能となった高圧電源などを更新する必要が生じた。これらにより今年度の研究に大幅な遅れが生じ、当初補助事業期間の最終年度でもあったために、補助事業期間の延長を余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は可能な限り早い時期に、超低リークレートの磁気軸受型ターボ分子ポンプを希ガス質量分析計に組み込み、この機構による高感度化の確認と、ターボ分子ポンプの回転速度に依存する、希ガス元素ごとに最適な圧縮率の検討を進める。 これらの開発により高感度化した質量分析計を用いて、マントル起源かんらん岩中の流体包有物一つ一つの分析や、超高圧変成岩に含まれるマイクロダイヤモンドや超高圧クロムスピネルなどの微小試料の分析を実施し、マントルにおける希ガス同位体比の不均質と、それをもたらしたマントル内物質移動について新たな知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していた、磁気軸受型ターボ分子ポンプの希ガス質量分析計の組み込みが、研究室移転などのために年度内に実施できなかったため、それで使用することを想定していたイオン源用の真空チャンバーやその他真空配管の製作費が未使用額となった。次年度は補助事業期間延長後であるため新たな助成金の配分はなく、本年度未使用額を使用して研究を実施する。
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