研究課題/領域番号 |
20K20532
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 洋介 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (30396783)
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研究分担者 |
中嶋 洋行 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (10467657)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 血流シミュレーション / ナノメディシン / ライブイメージング / セブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
高解像度共焦点顕微鏡画像を垂直方向に積み重ねることにより、ゼブラフィッシュの発生段階における血管3次元構造を再構築するためのアルゴリズムを開発した。得られた3次元構造から各血管の中心線、局所の血管径、分岐点を自動的に抽出する画像処理プログラムを構築し、これを1次元血流シミュレーションモデルに取り込むことにより、発生段階のゼブラフィッシュ後脳の血管網の血流シミュレーションを実施した。血管網ループを形成する箇所では、局所のせん断応力が小さく、血管網リモデリングとの関係性が示唆されるなど、興味深い結果が確認された。 一方、実験により取得される動画において、赤血球の移動をトラキングすることにより局所の流速を算出し、これを血管網の異なる領域で行うことによって、ゼブラフィッシュ脳内における流れの方向、流速などの統計データを取得した。これらのデータは、今後、シミュレーションの検証において極めて有用な知見となる。 また、血管内皮細胞、赤血球、ナノ粒子を独立に観察するための光学系を新たに開発した。米国ペンシルベニア州立大学と協働して、様々なナノ粒子を合成し、これをゼブラフィッシュ体内に導入することにより、ナノ粒子が血流に乗って体内を循環する様子、またナノ粒子のサイズや形状によって凝集度合いが大きく変わることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共焦点顕微鏡によって得られる高解像度画像から3次元血管網構造再構築を行うための画像処理プログラムを開発し、ゼブラフィッシュの脳全体の毛細血管網の再構築を実現している。また、赤血球の移動から局所の血流速度を算出するプログラムも完成し、ライブイメージングによる観察結果を活用するための基盤ツールの構築も完了している。また実験では、血管内皮細胞、赤血球、ナノ粒子を別の色素で蛍光し、可視化するための光学システムを開発し、今後、ゼブラフィッシュ体内における高時空間分解能データの取得が期待できる。血流シミュレーションでは、血管構造や血流の3次元性および赤血球と血漿の相互作用を陽的に考慮した散逸動力学法、およびそれらの3次元効果をモデル化し血管軸方向のダイナミクスと血管の結合性のみを考慮した1次元モデルを用いた血流シミュレーションを個別に実施し、両者の定量的な比較を行った。このように、実験装置、画像処理、血流シミュレーションという本研究の基盤ツールが予定通り整備できていることから、計画通り順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
実験においては、より鮮明かつ高解像度の画像が取得できるよう計測システムの高度化を推し進めると共に、ゼブラフィッシュ体内にがん細胞を注入し、体内でがん細胞が増殖させるための実験装置の開発、およびノウハウの蓄積を行う。また、引き続きペンシルベニア州立大学と協働して、様々なサイズ、形状、化学的特性を持つナノ粒子を合成し、これらをゼブラフィッシュ体内に注入することにより、それらの因子がナノ粒子の凝集、血管外への排出などにどのような影響を与えるか調査する。一方、シミュレーションにおいては、時空間高解像度の画像や動画をシミュレーションに取り込む技術を開発し、得られる画像や動画から、局所の血流などの血行力学因子、ナノ粒子の血管内や組織への拡散などを推定するためのフレームワークの構築を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、国際会議への参加や共同研究先への出張を見合わせたこと、また新規に採用を予定していた研究員の来日も大きく遅れたために、当初予定していた予算執行計画を変更し、次年度以降に使用することでより有意義な予算執行が可能となると判断したため。
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