研究課題/領域番号 |
20K20534
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大野 雄高 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 教授 (10324451)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | バイオセンサ / 神経伝達物質 / カーボンナノチューブ |
研究実績の概要 |
ストレスに起因する様々なリスクの管理は極めて重要な社会課題であり、簡便かつ高精度な計測に基づくストレス評価技術の確立が求められている。ドーパミン等の神経伝達物質は人の多様な感情を司る生体分子であり、ストレスマーカーとして知られる。本研究では、カーボンナノチューブ表面への吸着現象を利用した神経伝達物質の超高感度・選択的検出手法の確立を目指し、背後にあるナノスケールの吸着現象 の物理を明らかにするとともに、全く新規の神経伝達物質の超高感度・選択的検出手法の創出を目的としている。 本年度は、神経伝達物質の代表的なドーパミンについて、ドーパミンと選択的に結合するフェニルボロン酸を用いた新たな選択的検出手法を構築した。生体試料においてはアスコルビン酸や尿酸が干渉物質となるが、これらの渉物質の存在下において、ドーパミンの検出が可能であることを実証し、本手法の有効性を確認した。また、ドーパミンの濃度に対する良好な線形性も確認した。 また、新たな試みとして、深層学習を利用した多種の神経伝達物質の同時選択的検出手法の確立を目指し、CNT薄膜を用いたマイクロアレイ型センサの試作を開始し、その動作を確認した。具体的には、プラスチックフィルム上に形成したカーボンナノチューブ薄膜を用い、半導体マイクロプロセスを適応して多数の微小電極を作製した。なお、作製プロセスで使用するフォトレジストなどの高分子材料はカーボンナノチューブ表面を汚染し、電気化学的特性を劣化させることが知られており、本研究では無機系の保護膜によってカーボンナノチューブ表面を被覆した状態でセンサを作製した。フェリシアン化カリウムを用いて作製したセンサ電極の特性を評価し、高い電子交換速度が得られるなど、優れた特性を有することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の吸着現象を用いた高感度検出については定量性に疑問が生じたため、選択的検出に主軸を置いた研究方針に修正し、本課題を推進している。すでに、有機分子を用いた神経伝達物質の選択的検出手法や、深層学習を用いた多次元同時選択検出の検討と試作など、新たに設定した研究課題で成果が得られつつあり、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
深層学習を用いた多次元同時選択検出技術の構築を進める。特に、マイクロアレイ型センサについて、カーボンナノチューブ表面を多種の識別分子で修飾し、その効果を明らかにする。識別分子については、特定の神経伝達物質と選択的に反応する有機分子を中心に検討するが、カーボンナノチューブ表面にπ-π積層によって吸着するピレンを同時にもつ有機分子を探索する。マイクロアレイ型センサの各電極に異なる識別分子を修飾し、ドーパミンやセロトニン等の有機分子に対する応答特性を調べるとともに、アスコルビン酸等の干渉物質に対する応答も評価し、識別分子の有効性を明らかにする。最終的には、異なる識別分子で修飾した複数の電極の応答特性を深層学習を用いて、解析する手法を構築し、本研究の目標を達成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症の影響により出張が取りやめとなり、旅費を計上しなかった。また、深層学習を用いた多次元同時検出の実験のためのDAQ装置を購入しようとしたが、半導体不足のため極めて納期が長く、購入に至らず、物品費の使用ができなかった。今年度は出張が可能となっており、学会発表のための出張を行う計画である。また、速やかにDAQ装置の購入を進める計画である。
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