研究課題/領域番号 |
20K20539
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野田 祐樹 大阪大学, 産業科学研究所, 特任助教(常勤) (30784748)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
|
キーワード | 振動 / 生体模倣 / 帯電 / コンクリート構造物 / 社会実装 |
研究実績の概要 |
振動センサは一般的には圧電型や静電容量型など様々な機構が知られており、1Hz以下の低周波から1000Hzを超える高周波まで広い帯域の伝搬振動を検知することが可能である。これを橋の橋脚やトンネルを始めとする交通インフラ構造物に設置し診断を常時行なうことで、日々進行する内部の劣化の過程をモニタリングできる。そのためには低コスト、高精度、耐環境性能の高い振動センサが求められているが、これらの要素を兼ね備えた振動センサは実現が難しい。本研究の目的は聴覚を司る蝸牛殻をモデルとした振動センサを作製し、これを建築物や交通インフラにおけるコンクリート構造物の劣化を診断するための振動センサとして社会実装を行うことである。 研究代表者は既に圧電型構造で1Hz-8000Hzの広域を検知できる振動センサの作製に成功しており、この研究指針のもと、圧電型が苦手とする1Hz以下の低周波領域の振動検出に取り組んだ。その結果、有限要素法によりセンサ構造を最適化することで0.5Hz近傍の信号を異方性をもって検出できることが明らかとなった。また検出加速度は1~10(m/s2)の範囲で直線性を有しており、優れた感度を有していることが明らかとなった。さらに生体聴覚の構造を模擬した新たな電極構造の合成方法の開発に取り組んだ。今後はこの電極構造を振動センサに組み込むことで、周波数0.1Hz、加速度(1m/s2)以下の低周波、低加速度の検出が可能なセンサ構造の最適化に取り組む。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は物理シミュレーションによる生体聴覚模倣型振動センサ構造の設計と印刷法による作製の取り組みを行った。シミュレーションは有限要素法を用い、XYZ3次元の各方向から外部荷重をかけた場合に構造にかかる応力ひずみの空間分布を解析することで伝搬振動の異方性を分離できるセンサ構造の最適化に取り組んだ。その結果、圧電型振動センサにおいて構造物の長周期振動に相当する1Hz近傍の周波数領域において高い異方性をもつセンサ構造の指針を得ることができた。実際に外部機関で振動試験を実施したところ、0.5Hz近傍の加振信号を異方性をもって検知することに成功した。また検出加速度は1~10(m/s2)の範囲で直線性を有しており、優れた感度を有していることが明らかとなった。一方で聴覚を模擬したナノ構造を溶液法で作製するプロセスを開拓することができた。これをセンサの電極として活用することでセンサの感度を向上させることが期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた振動センサ構造と溶液法で作製可能な電極構造を組み合わせることで周波数0.1Hz、加速度(1m/s2)以下の低周波の振動検出が可能な振動センサの開発に取り組む。また、実装を想定して劣化度合いの異なる状態にあるコンクリートブロックにセンサを設置し、伝搬振動の周波数分析を行なうことで、状態の検出に取り組む。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者を当初想定していた学生から技術補佐員へ変更する必要がある。主な理由はコロナ禍における緊急事態宣言等で大学への登校頻度が最も不安定になりやすい学生への研究協力から、勤務頻度を調整可能な派遣技術員へシフトすることで本プロジェクトの遂行を確実にするためである。これにより人件費として年間130万円を2年間分新たに計上する。一方で申請時に物品費として申請していた高周波数帯用加振機の導入を中止し、代わりに加振機を自作もしくはメーカーからのレンタルに切り替える。また予め申請していた謝金120万円を100万円以下に減額する。これにより人件費増額分を抑制する。また物品費として新たにセンサ作製のための印刷機やプローブ、分光器一式などを計上する。これはセンサ作製と計測環境を整え、さらに作製した圧電体の分子配向をキャラクタリゼーションするために、偏光計測など光学的手法で解析する必要が出たためである。
|