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2023 年度 実施状況報告書

ネイチャーテクノロジーを用いたマンガン酸化細菌による新規排水処理技術の開拓

研究課題

研究課題/領域番号 20K20540
研究機関広島大学

研究代表者

大橋 晶良  広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (70169035)

研究分担者 金田一 智規  広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (10379901)
研究期間 (年度) 2020-07-30 – 2025-03-31
キーワードネイチャーテクノロジー / マンガン酸化細菌 / Mn酸化・還元 / 微生物 / 排水処理 / 資源回収
研究実績の概要

微生物を利用した排水処理技術は,ここ数十年の間に徐々にではあるが進歩している。このようなことを述べると,排水処理技術は成熟したように感じられるかもしれない。しかしながら,手付かずの未解決の排水処理が残されている。従来の生物学的処理では金属,難分解性有機物,着色の排水に適用できない。これらの排水処理はお手上げ状態にある。
そこで本研究では,生物学的排水処理のブレイクスルーとなるネイチャーテクノロジー(自然模倣技術)を用いた新規排水処理技術の開拓に挑戦する。具体的には,マンガン酸化細菌と,この細菌が生成するMn酸化物を利用するネイチャーテクノロジーにより,手付かずの排水処理を解決することを目的としている。本研究の目的である,マンガン酸化細菌を利用した金属および難分解性排水の新規処理技術を構築し,従来とは異なる窒素処理および微生物による発電を提案し開拓するには,さらに科学および工学的アプローチの研究が必要であり,研究内容は次の4項目からなる。1. Bio-Mn酸化物の生成機構の解明とオーダーメイドの金属吸着・除去の把握,2. 難分解性物質の分解機構の解明,3. 新たな窒素サイクルを利用した新規窒素処理プロセスの開発, 4. 新規微生物燃料電池の開発。
令和5年度は,Bio-Mn酸化物の生成機構,難分解性物質の分解機構,新たな窒素サイクル現象,染料の分解,新規の微生物燃料電池の5項目について実施した。その結果,次のような基礎的な知見を得た。有機物濃度によるMn酸化・還元の機構を明らかにした。染料の分解はMn酸化物とオゾンによる前処理が効果的である。DHSリアクターによるマンガン酸化細菌の連続培養が可能である。新規好気Mn酸化脱窒細菌の分離培養には至っていない。新規の微生物燃料電池の不安定の原因が予測できた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

マンガン酸化細菌を利用した排水からの金属回収,難分解性排水処理,窒素除去,発電の新規処理技術を開拓し構築するには,科学および工学的アプローチの研究が必要であり,4項目の実施において,次のような成果を得た。ただし,当初の目標に達していない項目もあり,進捗状況としてはやや遅れていると判断される。
1.Bio-Mn酸化物の生成機構の解明とオーダーメイドの金属吸着・除去:マンガン酸化細菌は,有機物濃度が低い時にはMn酸化するが,有機物濃度が高い時にはMn還元を行う。この機構を明らかにするため,遺伝子発現をRNA発現解析により実施した。Mn酸化と還元の時の遺伝子発現に大きな違いがあり,関与する一部の遺伝子の機能は判明できたが,不明な遺伝子が多く,課題が残された。
2.難分解性物質の分解特性:微生物によって直接的に染料を分解できなくても,染料がMn酸化物によって分解され,その分解生成物はさらに生物学的に分解除去されることが分かった。しかし,Mn酸化物による分解生成物の中には,染料よりも高分子の物質も生成された。そこで,高分子の生成物が生成されないようなMn酸化物による分解方法を検討し,オゾンとの併用により解決できることが分かった。
3.新たな窒素サイクルを利用した新規窒素処理プロセスの開発:好気条件下においてMnを酸化して硝酸塩を除去するDHSリアクターによる連続処理を実施し,新規の好気Mn酸化脱窒細菌の集積培養に成功し,この新規微生物の分離培養を試みた。しかし,分離培養には至らず,培養条件を検討して,継続する必要がある。
4.新規微生物燃料電池の開発:一槽型のMn酸化物をアノード電極に用いた新規の微生物燃料電池の処理性能は不安定であった。その原因として,Mn還元酵素の発現と濃度が影響していると推測された。

今後の研究の推進方策

マンガン酸化細菌と,この細菌が生成するMn酸化物を利用するネイチャーテクノロジーにより,手付かずの排水処理を解決することを目的に,新規生物学的排水処理技術の開拓に挑戦した。科学および工学的アプローチを通して,廃水からの重金属処理・レアメタル回収,染料などの難分解性物質の排水処理,新規窒素リサイクルを利用した低コスト型の窒素排水処理,マンガン酸化細菌を利用した微生物燃料電池による排水からの発電が可能であることを明らかにすることができた。しかしながら,これらの新規技術の実用化に向けて,性能の不安定性の問題,処理性能の向上などの課題を解決する必要があり,今後の推進方策を次に示す。
1.Bio-Mn酸化物を早期に高速で生成する技術を確立することができた。しかし,さらなる性能の向上には,マンガン酸化と還元に関与する遺伝子の特定が不可欠であり,RNA発現解析を進める。また,オーダーメイドの金属吸着・除去に向けて,Bio-Mn酸化物の結晶構造の解析が重要となる。
2.アントラキノン染料などの難分解性物質に対して,Mn酸化物とオゾンを併用した化学的前処理により,生物分解することでき,染色排水処理に適用できることを明らかにした。ただし,染色排水にはアントラキノン以外の多種多様な染料が使用されており,種々の染料に適用できるかを調査する必要がある。
3.微好気条件下においてMnを還元してアンモニアを酸化する嫌気硝化反応と好気条件下においてMnを酸化すると共に硝酸塩を還元して窒素ガスにする脱窒反応の組み合わせによるMnと窒素のサイクルを利用した新規窒素処理プロセスを開発した。しかし,これらに関与する新規の細菌を分離培養するまでには至っておらず,安定的な処理の構築に向けて分離培養して特性を明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

新規窒素サイクルに関与するMn酸化細菌とMn還元細菌の分離培養を試みたが,成功に至らなかった。また,新規窒素処理プロセスの処理性能が安定しなかったため,微生物解析をまだ実施しておらず,解析費を使用していなかった。令和6年度は,分離培養ができなかった場合でもメタゲノム解析に変更して,その解析費として使用する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2024 2023

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] Mn酸化物存在下での無酸素硝化2024

    • 著者名/発表者名
      陳 揚波, 松下 修司, 金田一 智規, 大橋 晶良
    • 学会等名
      第58回日本水環境学会年会
  • [学会発表] 無酸素条件下での Mn 酸化物を用いた亜硝酸塩の酸化・還元反応2023

    • 著者名/発表者名
      陳 揚波, 蒲原 宏実, 松下 修司, 青井 議輝, 金田一 智規, 尾崎 則篤, 大橋 晶良
    • 学会等名
      日本微生物生態学会第36回大会

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公開日: 2024-12-25  

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