研究課題/領域番号 |
20K20542
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小紫 公也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90242825)
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研究分担者 |
中野 正勝 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 教授 (90315169)
松井 信 静岡大学, 工学部, 准教授 (90547100)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2026-03-31
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キーワード | エネルギー全般 / レーザー / プラズマ / 航空宇宙工学 |
研究実績の概要 |
(1)レーザーアブレーションによるアルミナ還元:月レゴリスを模擬した二酸化ケイ素・ケイ素とアルミナの混合粉体のレーザー還元実験が行われた。二酸化ケイ素とアルミナの混合物のアブレーションではアルミニウム生成量は上昇せず、ケイ素とアルミナの混合物ではアルミニウム生成量が上昇することが確認された。還元作用を持つケイ素との混合物でアルミニウム生成量が上昇したことにより、還元剤使用の有用性が示された。また、月レゴリス内の二酸化ケイ素を還元できればアルミナの還元も可能となることが明らかになった。 (2)アルミニウム原子の分離・回収:核生成理論に基づいた温度制御回収板によるアルミニウム回収実験が行われ、タンタル板で1500 Kの条件でアルミニウムの回収に成功した。アルミニウム回収率は2.0%であり先行研究の0.03%より大幅に向上した。タングステン板及びアルミナ板ではアルミニウムは回収されなかったが、これは材料に応じた回収板での表面現象によりアルミニウム回収現象が妨げられたためと考えられ、回収板材料の重要性が明らかになった。 (3)アルミニウム収量向上のための数値シミュレーション:アルミナ堆積層へのアルミナアブレーションプルーム付着の分子動力学計算が行われ、プルームを回収板に当てることでアルミニウム比率が上昇することが確認された。この比率はアルミニウム原子と酸素原子の分子量の差に起因しており、プルーム生成・付着の繰り返しにより比率の向上が可能であることが示された。また、回収板温度が高いほどアルミニウム比率が上昇することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)レーザーアブレーションによるアルミナ還元:月レゴリスに含まれる二酸化ケイ素を還元して得られるケイ素とアルミナの混合によりアルミニウム生成量が上昇すると示されたことは、月面における本手法の実用上有意義である。 (2)アルミニウム原子の分離・回収:核生成理論に基づいた温度制御回収板でアルミニウム回収に成功したことは、本手法への理論の適用の正しさを示しており、さらなる回収率向上に向けて重要なヒントになると期待される。 (3)アルミニウム収量向上のための数値シミュレーション:アルミナプルームの生成、付着の繰り返しにより回収板付着物のアルミニウム比率の向上が可能であると示されたことは重要であり、実験で再現することができれば今後のアルミニウム回収効率を大幅に向上させることにつながる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)還元剤を用いたアルミナ還元の高効率化:還元剤の有用性が示唆された。さらなる高効率化に向けて水素、メタンを用いた還元雰囲気下でのアブレーション実験を行い、生成アルミニウム量を評価する。水素およびメタンは電気分解およびサバティエ反応で生成可能であり、月面でも初期に必要量を確保できれば還元剤として持続的に用いることができる。またケイ素と併用することでさらなる還元率向上を目指す。 (2)アルミニウム回収率の向上:核生成理論に基づいてアルミニウム回収率を上昇させることが可能であると示された。核生成理論によるとアルミニウムの生成にはアルミニウム分圧も重要である。これを上昇させることでさらなる回収率の向上を目的とし、高圧条件下でのアブレーション実験を行う。また、プルーム生成・付着を繰り返すことによる回収板付着物のアルミニウム比率の上昇を実験により確かめる。プルーム生成・付着を効率的に連続して行うことのできる装置を開発し、従来為し得なかったレーザー還元におけるアルミニウム大量回収を目指す。 (3)数値シミュレーション:研究分担者中野正勝教授が主として担当する。中野が作成した分子動力学計算コードを利用し、回収板へのアルミニウム付着を定量的に計算する。推進方策(2)と連携し、最適なアルミニウム回収システムを計算で明らかにする。
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