研究課題/領域番号 |
20K20546
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 晃司 京都大学, 工学研究科, 教授 (50314240)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 強誘電体 |
研究実績の概要 |
従来のペロブスカイト強誘電体では、イオンの変位によって直接的に極性構造が形成され自発分極が発生する。このタイプの強誘電体は直接型強誘電体と呼ばれ、約70年間、強誘電体研究の主流を担ってきた。本研究では、従来の直接型とは異なり、「ハイブリッド間接型」の機構に基づく新奇強誘電体を開拓する。特に、「物質合成-第一原理計算-構造解析-分光・物性測定」の有機的連携に基づいて課題を遂行し、物質開拓、基礎物性の解明、新機能創出を通じて、間接型強誘電体の基礎学理を構築する。 令和2年度は、新規間接型強誘電体を開拓するため、これまでの組成を大幅に拡張した。具体的には、ルドルスデン-ポッパー型層状ペロブスカイト酸化物A3B2O7に焦点を当て、様々なAカチオンとBカチオンの組み合わせにより、酸素八面体回転制御に基づく強誘電性の発現を目指した。高温固相反応により強誘電体の候補物質を合成し、放射光X線回折、光第二高調波発生、および強誘電ヒステリシスの測定により構造解析・物性評価を行った結果、いくつかの系において室温で強誘電相が安定化されることがわかった。また、温度可変の放射光X線回折測定と光第二高調波発生により構造相転移も同定され、強誘電性がハイブリット間接型の機構によって現れることが示唆された。これは強誘電相転移機構の解明につながる重要な成果である。この他にも、安定相は強誘電体ではないが、準安定相の凍結により間接型強誘電性の発現を目指した。ペロブスカイト関連層状化合物を対象として、いくつかの組成についてパルスレーザー堆積法により単結晶基板上で準安定相エピタキシャル薄膜を作製することができた。今後、強誘電ヒステリシス測定装置と圧電応答顕微鏡により強誘電応答(分極反転)を調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は強誘電体をいくつか見出すことができた。特に、第一原理計算による物質探索・物質設計が非常に有効であることがわかり、研究の進展に大いに貢献している。また、高精度な放射光X線・中性子回折と光第二高調波発生のデータを使って、精密構造の決定に成功している。強誘電体の評価装置も整備されつつあり、評価手法も向上した。今後、第一原理計算-構造解析-物性評価の有機的な連携により、強誘電相転移機構が解明され、このタイプの強誘電体に特有の物性・機能が見出される可能性は大いにある。
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今後の研究の推進方策 |
間接型強誘電体の物質設計では、元素選択の自由度が直接型の場合と比べて遥かに大きく、従来では実現困難であった機能を容易に付与することができる。この観点から、今後は磁性や可視光応答性の付与による高機能化の実現を目指す。既に3d遷移金属を含む強誘電体を見出しており、構造解析と物性評価を開始している。この方向での研究を推進することにより、高機能な強誘電体が実現する可能性は十分あると予想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により実験停滞期間があり、試料合成のための試薬や光学実験のための光学部品等の購入を延期せざるを得なかった。令和3年度でこれらを購入し、予定通りに研究を遂行する。
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