研究課題/領域番号 |
20K20548
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
阿尻 雅文 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (60182995)
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研究分担者 |
成 基明 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 助教 (30747259)
笘居 高明 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (80583351)
横 哲 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (80807339)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 水素製造 / 酸素キャリア / 低温廃熱 / Water-Splitting / 界面 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、廃熱による水素製造を目的に、ケミカルルーピングシステムによる、低温水分解プロセスの開発を行っている。本プロセスを可能にするのは、低温でも動作する高活性ナノ酸素キャリアであり、還元された酸素キャリアの酸素空孔に水を解離吸着して、水から酸素を引き抜くと同時に水素を分離して得る。本年度は特にセリアについて、熱重量計を用いて、酸素キャリアの酸素放出、自らの酸素吸蔵反応量を評価した。 セリアについては、メタン、水素などの還元剤存在下では低温でも有意な速度で酸素を放出するが、不活性ガス下では、酸素の放出速度の高い立方体状酸化セリウムナノ粒子を用い、1000℃の高温で処理した場合であっても、数時間のタイムスケールでは、有意な酸素放出を確認できなかった。そこで、低温での酸素放出量と酸素放出速度の向上を目的に、CuOを複合化させた。その結果、CuOは800℃付近でCu2Oに還元されて酸素を発生することを確認した。 還元されたセリアは水と反応し水素を放出することが分かっているため、還元された酸化銅にCeO2から酸素を移動し、酸化銅を酸化することが出来れば、低温での水分解・水素製造は可能であるはずである。しかし、還元されたCu2O-CeO2を水と反応させても、低温ではCu2Oはほとんど酸化されず、CuO-CeO2間での酸素の移動がスムーズに生じなかった。低温で酸素を放出する金属または金属酸化物とセリア間でスムーズに酸素が移動できる界面状態の制御が今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
低温で酸素を吸蔵・放出の両者を進行させることは本来、熱力学的に難しい。ここに本研究の挑戦性がある。基本材料候補であるセリアの不活性ガス中での酸素放出は、熱力学的には600~1000℃程度でも進行するはずであるが、実際には速度論的に進行せず、CuOと複合化させた場合であっても、CuOの酸素放出は容易に起こるが、セリアからの酸素移動に現状課題が残る。研究を通じて材料の課題を明確化することが出来たが、当初の計画と比較して、「やや遅れている」と判断せざるを得ない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
課題は大きく2つあり、一つは、低温での酸素吸蔵放出特性の改善、もう一つは、酸素放出を助ける助触媒との界面制御である。最初の課題については、CeO2よりも酸素放出能力の高い、クロムを置換したCr-CeO2やCeO2-ZrO2の合成法をすでに確立しているため、課題解決の可能性は高い。一方助触媒との界面制御についても、セリアの酸化還元能を利用した助触媒金属プリカーサーのセリア表面での還元担持法を開発しており、この新規助触媒担持法を利用することで、本課題の解決に取り組んでいく。 具体的にはCr-CeO2、CeO2-ZrO2、そして面制御されたFe2O3を中心に酸素放出能力を熱重量装置で実施する。また、これらの酸素キャリアにPt、Pd、Cu、Ruなどの助触媒を複合化させて金属-酸化物間の酸素移動を改善し、水分解時の重量変化や水素生成量を評価する。理論的にも計算科学を用いて表面、特に特定の露出面での金属-酸化物間の相互作用について調査し、酸素欠損エネルギー計算および水の解離吸着と水素脱着についてシミュレーションして材料開発にフィードバックする。
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次年度使用額が生じた理由 |
低温で水分解が可能な材料種の探索に時間を要しており、当初計画から遅れが生じている。助触媒候補は見出せたことから、次年度、良好な界面形成など複合材料の高度化のため合成システムの改良、さらに水分解プロセス設計、デモ装置開発を進めていく予定である。超臨界合成装置の改良費、水分解デモ装置開発費、さらに研究加速のための研究補佐員雇用費などが次年度発生するため、翌年度の使用額が発生した。
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