研究課題/領域番号 |
20K20549
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 潤一郎 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (60218576)
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研究分担者 |
浅野 周作 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (30827522)
村中 陽介 京都大学, 工学研究科, 助教 (40756243)
前 一廣 京都大学, 工学研究科, 教授 (70192325)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 廃鉄 / 塩酸 / トランプエレメント / バイオマス / 鉄・炭素コンポジット / 脱塩素 / 鉄の還元 / 鉄ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
廃鉄の高純度鉄への再生、バイオマス(BM)の水素ガス・一酸化炭素への転換およびメタンのH2と炭素材への転換を同時に行う、全く新しい5元素(水素、鉄、酸素、炭素、塩素)化学サイクルを提案し、このサイクルの概念実証を目的とする研究を開始した。以下の初年度の成果を述べる。 模擬廃鉄溶液から鉄と最重要トランプエレメント(TE)のCuを分離する手法を検討した。廃鉄中成分において、低pHにて最も溶解度が低いイオンはFe3+であることに着目し、廃鉄溶液中のFe2+を安価な酸化剤である空気中の酸素を用いて酸化しpH調整することでFeの選択的回収を試みた。廃鉄の塩酸への溶解、空気による鉄イオン酸化、加熱を伴うpH調整、固液分離の手順を提案した。提案法によって最大で99.44%の鉄が回収できることを示した。さらに、洗浄方法の改良や各種含有TEに応じたpH範囲調整によって、より高純度の鉄回収を回収できることを示した。 塩化鉄とBMから還元鉄と鉄/炭素複合材を製造する手法として、ペレット化と不活性雰囲気化での熱分解を検討した。塩化鉄(II)を担持した微粉砕BMを熱間成形すると、塩化鉄がBM粒子間でバインダーとして働き、最大で20 MPaを超える引張強度を持つペレットが得られることを示した。ペレットを加熱していくと、550-800℃の温度帯で塩素が塩化水素として脱離し、鉄は還元鉄もしくはセメンタイトへと変換されることを示した。明視野走査透過顕微鏡を用いた観察により、熱分解後の鉄はおよそ30~40 nm径のナノ粒子として高分散に存在していることが分かった。塩化鉄の担持量を最大で1 gのバイオマスに対し0.76 gにまで増やして試験を行ったが、塩素の残存率や得られる鉄の形態には大きな差は生じず、BMが塩素の脱離および鉄の還元に対して非常に有効に機能していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R2年度は、本研究の8つのTask (T)のうち、T1:Fe3+溶解度のpHプロファイルが他の金属イオンと異なること利用した溶解分離、T2:バイオマス質量の1.3倍を超えるFeCl3の担持、T3:バイオマスの水素が鉄還元剤、塩化鉄分解剤、塩酸の水素源として機能することによる塩素を固体から完全脱離除去、T4:Fe/C複合体の炭素の一部をCO2でガス化することによる鉄ナノ粒子のメタンに対するaccessibility向上、T7:COリッチ・CO2プア雰囲気(還元鉄、炭化鉄生成に必須)における炭化物ガス化、を検討する計画であったが、いずれも計画通りの検討を実施した。なかでも 、T1およびT2では、概念実証のための数値目標を達成し、想定以上の成果を創出することができた。以上に加えて、T5:Fe/Cを担体とするメタンからのナノ炭素・水素製造、T6:鉄/炭素複合体表面に生成したカーボンナノファイバの分離回収、に関しても準備研究を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
R3年度は、すでに成果を創出したT1(廃鉄からの鉄の選択的溶解・塩化鉄製造)、T2(塩化鉄のバイオマスへの高濃度担持・高強度ペレット製造)の研究をさらに展開するとともに、当年度主題であるT3( 塩化鉄担持バイオマスの熱分解による鉄/炭素ナノ複合体(Fe/C)と塩酸の製造)、T4(Fe/Cの部分ガス化による鉄触媒活性化・合成ガス製造)、T5(Fe/Cを担体とするメタンからのナノ炭素・水素製造)、T6( Fe/Cからのナノ炭素分離)、T7( Fe/Cからの鉄・合成ガスあるいは炭化鉄・合成ガス同時製造)を本格的に検討する。とくに、T3およびT4では、概念実証のための目標である、塩素回収率(as HCl)>99%-Cl、タール<0.1%-C、鉄の還元率>98%、C基準炭化物収率最大化の条件抽出(T3)および炭化物ガス化率と鉄ナノ粒子の露出率の関係解明、鉄ナノ粒子の還元状態を維持するガス化の実証(T4)を達成するために研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
九州大学の研究代表者(林)と分担者(浅野)分に関しては次年度使用額はゼロであったが、京都大学の2名の分担者(前、村中)については、同大学における教員および学生の研究活動が著しい制限を長期にわたって受けたため、Task 1(準備研究、本格研究)、Task 3(準備研究、本格研究)およびTask 5(R2年度は準備研究のみの計画)への取組にかかる経費の執行計画を変更し、とくにTask 1については十分な研究成果を創出すること、Task3およびTask 5についてはR3年度の成果創出のため、集中的・重点的に研究経費(B-A)を充てることとした。
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