研究課題/領域番号 |
20K20552
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉田 秀人 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (00452425)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | ナノギャップ / 電子顕微鏡 / 原子スケールその場観察 |
研究実績の概要 |
ナノギャップにおける新規物質の合成および合成条件の探索・確立を目指し実験を進めた。まず、電解研磨法とイオンミリングによって、ナノギャップの電極となる白金針を作製した。針の先端が透過型電子顕微鏡(TEM)観察に適した形状、かつ清浄になる作製条件を探索した。次に、作製した一対の白金針をTEMホルダーに向かい合わせに配置し、TEM内で一方の白金針をピエゾ素子で動かしてギャップ間隔を制御することでナノギャップ電極を形成した。形成した白金ナノギャップ電極を真空中、酸素中、窒素中で環境TEMその場観察し、その表面形状や原子スケール構造の変化を調べた。その結果、すべての観察雰囲気中で白金針の表面には酸化物層が形成することが分かった。酸化物層の厚さは真空中で約0.5 nm、酸素と窒素中では約2 nmであった。酸化物層の高分解能TEM像には、間隔0.27 nmの原子コラムに対応するコントラストが見られることから、酸化物はPtOかPtO2であると考えられる。さらに、ナノギャップに電圧を印加してギャップ間隔を狭め電界強度を大きくすると、負極側でのみ酸化物層が消失した。ギャップ間隔を狭めたときにはトンネル電流が計測されている。負極に流れ込んだ電子により電極表面の白金酸化物が還元され、消失したと考えられる。この酸化物相の消失は真空中、酸素中、窒素中のいずれの雰囲気においても観察されたが、特に窒素中で顕著であった。試料周辺の酸素量が少ない雰囲気ほど白金酸化物の還元が促進されると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスによる研究環境の変化や、研究室の体制変更などもあったが、着実に研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに見出した白金電極表面の構造変化について研究を深める。環境TEM観察により、構造変化とギャップ間隔、印加電圧およびガス圧力との関係を定量的に評価する。また、構造変化と白金結晶面の関係も明らかにすることで、白金ナノギャップ電極の気体反応メカニズムの解明に取り組む。次に、各種電極材料(金、銀、銅、パラジウム、鉄、コバルト、ニッケル等)と気体(酸素、窒素、水素、アセチレン等)の組み合わせについて、電圧印加時にナノギャップ電極におこる変化を系統的に調べる。組み合わせによっては、先行研究にて見出したパラジウムと窒素の組み合わせにおける窒化パラジウム(PdN)形成のような、新規物質の合成を発見できると考えている。新規物質の合成に成功した場合、その合成条件の確立を目指す。また、特殊な電子照射制御機構を利用して、環境TEM観察時にナノギャップ電極でおこる現象に高エネルギー入射電子、二次電子、トンネル電子のどれが関与しているのかを明らかにし、合成メカニズムの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の推進に必須である電子顕微鏡の電子銃は寿命があるため定期的な交換が必須である。メーカー推奨の交換期限が当該年度内であったため、当初の使用計画には交換費を計上していた。しかし、電子銃の寿命には若干の個体差がある。我々の電子銃は当該年度内において問題なく使用できていたので交換を先送りすることにした。次年度には間違いなく交換が必要となるので、繰り越した経費は次年度に電子銃の交換費として使用する。その他の経費については当初の計画通りに使用する。
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