本研究は、ニオイを音声データに変換する新たな嗅覚センサシステムを開発することを目的としている。まずニオイと音声を同時に取得する測定環境を構築し、高精度のオーディオインターフェースと対応するマイクの選定を行った。これにより、ニオイと音声の高精度同時測定が可能になった。次に、自動ガス制御システムと音声測定システムを構築し、ガス流路系の精密設計を行った。有限要素解析と試作実験により、測定系の精度を向上させ、外乱の影響を抑える測定条件を確立した。こうして確立したガス制御-音声測定システムを用いて、時間領域と周波数領域での測定を行い、各種ガスの識別が可能であることを実証した。得られた共振周波数の変化から各ガスの音速を解析し、時間領域データから特徴量を抽出して多次元解析を実施した。これにより、ガス種や濃度の識別が可能となり、高い線形性と測定精度を確認した。さらにこの手法を最適化することで、ppmレベルのガス測定を実証し、簡易デバイスによる実証にも成功した。この音響計測法は、市販のイヤホンとマイクがあれば実現可能な手法であり、再現性の高い測定を実施可能である。また、物理的な測定方法であるため、化学センサのような検体の残留やセンサの被毒などの問題が発生しない。本手法は、特に高精度なガス濃度計測に有用であるが、時系列データの解析や、化学センサとの組み合わせにより、化学種識別も可能となる。以上のように、本研究で確立した新たな音響ガス計測法によって、簡易デバイスによる高精度ガス濃度の迅速分析が実現し、多様な応用が期待される。
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