研究課題/領域番号 |
20K20555
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
原田 研 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 上級研究員 (20212160)
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研究分担者 |
森 茂生 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20251613)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | シュリーレン法 / ホロコーン照明法 / ラミノグラフィー / 空間電磁場 / 3次元観察 / トモグラフィー / トリゴノグラフィー |
研究実績の概要 |
本研究は干渉に強く依存しない位相分布可視化法としてのシュリーレン法と3次元計測法の一つのラミノグラフィーに注目し、試料の内部だけでなく試料周りの空間電磁場の3次元分布を可視化し、計測できるシュリーレン電子顕微鏡法の開発を目的としている。 2021年度、理化学研究所チームにおいては300kV電子顕微鏡の対物レンズを磁場印加機構とし、磁場印加と干渉観察とを独立制御できる光学系を考案、構築した。これにより、従来は200mT(ミリテスラ)止まりだった磁場印加状態の干渉観察を500mTまで実現できるようになった。さらに、シュリーレン法と双対して空間電磁場を広範囲に観察できる、ローレンツSEM法を開発した。この手法は試料と格子とを同時観察し、格子像のゆがみから電磁場を定量計測する手法で、電子波干渉に頼らないため、汎用型のSEM、TEM、FIB装置で実施可能である。加えて、2020年度特許出願を行ったトリゴノグラフィー(直交3軸方向観察法)に関しては、テスト試料を作成し、ラミノグラフィーとの比較実験を開始した。これにより、シュリーレン法とトリゴノグラフィーとは、技術的共通点の多いことが判明した。なお、2020年度繰り越しとなっていたカメラシステムの導入は、2021年12月末に実施できた。現在、導入した新しいカメラシステムと2020年度に開発した、ホロコーン照明の制御機能との連動/調整を実施している。 大阪府立大学チームにおいては200kV電子顕微鏡にトモグラフィーによる3次元画像取得システムの導入を行った。Niナノ粒子(100nm)およびSn系負極活物質のナノ粒子(200nm)に対してトモグラフィーに依る3次元画像取得を行うことができた。また、昨年度開発したトリゴノグラフィー用ホルダーについて、電子顕微鏡内にて傾斜±55°、方位角回転 360°の可働と試料観察を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も2020年度に引き続き、残念ながらコロナ禍の影響を強く受けた。しかしながら、2020年度に繰り越したカメラシステムの導入を待つ間に、これまでよりも2.5倍強い磁場中(500mT:ミリテスラ)での電子波干渉観察が可能な光学系の構築や、シュリーレン法との双対観察が可能なローレンツSEM法を開発できた。特に、このローレンツSEM法は電子波の干渉現象に依存しないため、高スペックな装置を必要とせず、汎用型のSEM、TEM、さらにFIB装置でも実施可能であり、今後、電子線だけでなく荷電粒子線を用いた空間電磁場の定量観察に寄与できる方法である。 さらに、当初の計画にはなかったトリゴノグラフィー(直交3軸方向観察法)への展開も順次進めており、ラミノグラフィーとの比較検討が可能な実証実験を実施した。さらにトモグラフィーについても新たに研究を開始し、3次元画像取得の実験を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は最終年度であり、当初の計画通り、ホロコーン像、あるいはホロコーン・シュリーレン像による電磁場の観察を実現する。それに先んじて、2021年度にスタートさせたトリゴノグラフィーとラミノグラフィーの比較検討実験をもとに、電子線トリゴノグラフィーの実現を目指す。トリゴノグラフィーを経由するのは、トリゴノグラフィーでは試料を傾斜・方位角回転させるが、相対的には電子ビームを傾斜・周回させるホロコーン技術と共通点が多いことが判明したためである。そのため、トリゴノグラフィーをも本研究のカテゴリに含めて開発を進める。 具体的には、理化学研究所チームでは、2021年度末に更新したカメラシステムを用いて、方位角制御と画像取得との連動による迅速な画像取得を実現する。そして、電磁場観察を可能にしたホロコーン・フーコー法の実現と、さらに電子線の傾斜角制御の精度を高めて、ホロコーン・シュリーレン法による空間電磁場の観察を行う。さらに先述したトリゴノグラフィー技術とホロコーン・シュリーレン技術とを融合・発展させ、空間電磁場の3D観察を目指す。 大阪府立大学チームでは、2020年度に試作したトリゴノグラフィー専用ホルダーを用いて電池材料のナノ粒子の3次元観察を行う。特に、電池材料の電子線照射による劣化を防ぐため、3次元画像の再構成に必要な画像取得枚数をできるだけ少なくし、また各像記録時の電子線照射時間を短くすることにより、3次元再構成画像の精度や解像度について評価検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も2020年度に引き続き、コロナ禍の影響を強く受けたため。 2020年度から2021年度に繰り越したカメラシステムの導入がさらに遅れ、2021年末日の導入となった。そのため実際の稼働開始が2022年2月となり、シュリーレン法で採用するホロコーン照明のための、電子線周回変調機構とカメラ機構との連動・調整が現在実施中である。なお、電子線周回変調機構は事前に準備をしていたが、導入されたカメラシステムの制御系が当初予定よりもさらに新しいものに更新されていたため、調整が必要となっている。
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