研究課題/領域番号 |
20K20556
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
芦原 聡 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10302621)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 中赤外波長域 / 超短パルスレーザー / 多段階振動励起 / 化学反応制御 / レーザー加工 |
研究実績の概要 |
中赤外超短パルスレーザーを用いると,特定の分子振動モードを選択して強い振動励起を実現できる。これは、特定の化学結合にエネルギーを供給できることを意味する。本研究では、この「モード選択的な励起」を通して化学反応制御や有機材料加工を達成する手法およびその基礎をなす学術を開拓する。これは、これまで振動分光計測に重宝されてきた中赤外光の、『物質操作ツール』としての価値を顕在化させる挑戦でもある。 初年度は、中赤外波形整形パルスによる多段階振動励起の理論解析に取り組んだ。分子の量子状態に関する密度行列の時間発展を数値的に計算するコードを開発し、赤外パルスの電場波形およびフルエンスに応じた振動励起ダイナミクスの予測を行った。また、中赤外パルスによる多段階振動励起実験のためのポンプ・プローブ分光測定系を開発した。具体的には、対象分子を封入する試料セルを設計・製作するとともに、中赤外パルスによって試料を励起し、その後の透過率変化を100フェムト秒の時間分解能で計測するシステムを開発した。 当該年度は、実際に赤外ポンプ・プローブ分光法による気相分子の振動・回転励起ダイナミクスの観測に取り組み、振動励起に伴う吸収スペクトル変化の観測に成功した。その様子は、理論計算による結果とも良い一致を示した。 並行して、電極反応における中間体・生成物の分子レベルでの理解を目指し、金属ナノ構造の表面プラズモンを利用した、電極表面を高感度かつ高い時間分解能で計測できる新規赤外分光法の開発に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モード選択的励起による化学反応制御へ向けて、当初予定していた、中赤外波形整形パルスによる多段階振動励起の理論解析に最適化理論を導入することにより、より広い自由度の中で多段階振動励起に適した赤外パルス波形の探索を行い、新規かつ重要な知見を得た。 また、赤外パルスを用いたポンプ・プローブ分光測定系を開発し、それを用いて気相・液相のそれぞれの低分子試料について、振動励起および振動緩和ダイナミクスの観測に成功した。特に、気相における振動回転遷移のダイナミクスを精密に時間分解観測した例は過去になく、重要な知見を得たと言える。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに理論解析を通して見出だした最適電場波形をもつ高パルスエネルギーの中赤外パルスを生成し、また、開発した中赤外ポンプ・プローブ分光測定系を用いて、気相および液相それぞれにおける低分子の多段階励起に挑戦する。と同時に、高振動励起された分子の量子ビートや振動緩和などのダイナミクスを明らかにする。以上の知見を礎にして、中赤外パルスによる化学反応制御の実験を実施する。 また、金属ナノ構造の表面プラズモンを利用して、電極表面を高感度かつ高い時間分解能で計測できる新規赤外分光法を開発し、電極反応のおける中間体・生成物の観測および促進に挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の赤外用光学素子の調達に想定以上の時間を要し、納期が年度内に間に合わない可能性があったため、次年度に執行することとした。翌年度分として請求した助成金と合わせて、光学素子類、装置開発費、ナノ加工共同利用設備使用料などの宛てる。以上の変更による研究計画の変更は無い。
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