研究課題/領域番号 |
20K20561
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
浅井 雅人 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (20343931)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | 超重元素 / イオン化エネルギー / 吸着エンタルピー / 荷電変換 |
研究実績の概要 |
周期表第7周期の末端に位置する112~118番元素では、強い相対論効果とスピン軌道相互作用の影響で、化学結合に関与する価電子軌道のエネルギーが大きく変化し、軽い元素では決して見られない超重元素特有の化学結合の発現が期待される。本研究は、これらの特異な電子配置と化学特性を112~116番元素のイオン化エネルギー測定と吸着エンタルピー測定から実験的に明らかにすることを目的とする。そのため、生成量が少なく半減期が極めて短い112~116番元素に適用可能な新しい実験手法の開発を行う。 実験装置の開発には、超重元素と化学的性質が類似するHg, Tl, Pb, Bi, Po, Rnなどの同族元素短寿命同位体ビームを生成し、超重元素を模擬した実験をする必要がある。令和2年度は、これらの短寿命同位体ビームを生成するためのRFイオンガイド式オフラインイオン源の設計検討とRF電極の試作を行った。またグループ内で開発を進めている電子衝撃型イオン源の試験状況も睨みつつ、最適なイオン源の検討を進めた。 荷電変換法を用いたイオン化エネルギー測定法の開発では、過去に科研費で製作したガスセル型イオンビーム減速装置を用いて、Heガス中に打ち込んだ様々な元素の荷電変換後の価数分布を測定した。当初想定していた0価、+1価だけでなく、+2価、+3価への荷電変換確率も大きいことが判り、今後製作するイオンビーム荷電変換装置の設計の際の重要な指針を得ることができた。 更に関連研究として、超重元素測定用Si検出器の重イオンに対する応答を詳細に測定し、また高分解能α線/核分裂片測定用プリアンプの開発試験を行い、超重元素測定の高精度化を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では令和2年度にRFイオンガイド式オフラインイオン源を製作し、令和3年度にイオンビーム荷電変換装置を製作して、令和4年度にかけて荷電変換法によるイオン化エネルギー測定法の開発試験を実施する計画であった。RFイオンガイド式オフラインイオン源については、グループ内で同様のRFイオンガイド装置の開発が進んでおり、RF電極等の設計を共通にして開発の効率化を図ることにした。またRFイオンガイド式とは別に電子衝撃型オンラインイオン源の開発もグループ内で進めており、それらの開発試験の結果を待って改めて最適なイオン源の設計製作をすることにした。そのため令和2年度での製作を3年度に延期した。 一方で、イオンビーム荷電変換装置に関しては、既存の実験装置を利用して先行して荷電変換試験を実施した。既存の表面電離イオン源でイオン化できる安定同位体のみを用いたHeガス中での荷電変換実験であり、超重元素を想定した実験条件とは異なる条件での実験ではあるが、今後の荷電変換実験及び実験装置の設計製作にとって重要な指針が得られた。 よって研究の進捗状況は全体として概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度にHg, Tl, Pb, Bi, Po, Rnなどの短寿命同位体ビームを生成できるイオン源を設計製作し、またイオンビーム荷電変換装置を設計製作して荷電変換試験を開始する。令和4年度は、吸着エンタルピー測定のためのクロマトグラフィー・測定装置の開発に着手するとともに、イオンビーム荷電変換装置の開発を継続する。令和5年度は、開発したイオンビーム荷電変換装置及びクロマトグラフィー・測定装置を超重元素生成装置に結合するための、超重元素ビーム引き出し電極の製作をおこなうとともに、イオンビーム荷電変換装置及びクロマトグラフィー・測定装置の開発を継続する。令和6年度は、開発したイオンビーム荷電変換装置を用いて、超重元素に対する最初の実証実験として、104番元素Rfのイオン化エネルギー測定をおこない、Rfのイオン化エネルギーを初めて決定する。 更にこれらの開発実験に必要な、短寿命同位体ビーム生成法の開発、超重元素測定用検出器の開発、超重元素の生成や測定に必要な核反応機構や崩壊様式等に関する研究、イオン化エネルギー及び吸着エンタルピー測定に関する関連研究を随時実施する。令和3年度には、超重元素生成に必要な核反応、核分裂機構を明らかにするため、Es標的を用いた多核子移行反応による中性子過剰超重核の生成及び核構造、核分裂研究を実施する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に製作予定だったRFイオンガイド式オフラインイオン源について、グループ内で進めている別の同様なイオン源の開発試験の結果を待って改めて最適なイオン源の設計製作をすることにしたため、令和2年度での製作を3年度に延期した。またコロナの影響で学会や国際会議が中止あるいはオンライン開催となり、旅費を使わなかった。これらの理由で生じた次年度使用額は、令和3年度に延期したRFイオンガイド式オフラインイオン源の製作に使用する計画である。
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