研究課題/領域番号 |
20K20562
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 峻一郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (40716718)
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研究分担者 |
黒澤 忠法 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (30720940) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 高分子 / 超伝導 / 低温物性 / 化学ドーピング |
研究実績の概要 |
本研究では、パイ共役系高分子において、固体中の電子相転移である超伝導転移を実現を目指した物質科学の研究を遂行した。無機凝縮系固体材料における超伝導は100年に渡り固体物理学の主役 であり、実験・理論の両側面から精力的に研究されている。様々な高温超伝導体が開発され、超電導リニアや量子アニーラ型コンピュータなどに応用されつつあ る。実施者は独自の材料設計及び電子状態の制御手法を用いて、室温で金属的な基底状態を有する高分子薄膜を開発した。特に、剛直な共役高分子鎖を自己組織的に配列させたのちに、ドーパント分子を周期的に導入する技術を基盤とし、高分子材料の物質科学と低温電子物性計測を組み合わせた多角的な研究を遂行した。その結果、キャリアドーピング量として1高分子ユニット あたり1電荷が実現された高伝導度高分子において、極低温において金属的な電子輸送が実現していることが明らかとなった。 本年度は、高分子材料だけでなく、単結晶状態を形成する低分子材料にも着目し、その電子状態の制御と電子相転移の可能性を模索した。精緻に配列した低分子結晶表面に高密度にキャリアドーピングを施した結果、有機半導体では世界初となる金属絶縁体転移を観測することに成功し、結晶表面において二次元電荷ガスを形成・制御することが可能となった。本結果は、分子の振動や欠陥などディスオーダーを有する系においても固体物理の予測する電子相転移が実現することを強く示唆し、超伝導転移の実現も可能であることが見出されつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通り、電子物性計測装置の導入が完遂すると同時に、材料スクリーニングも行う体制が整備されたと言える。ドーパント分子材料の開発や構造評価手法を開発にも成功しており、材料選定に目処が立っている。低温物性測定では、希釈冷凍機を用いた50 mK程度の極低温実験を予定していたが、共通機器のマシーンタイムを十分に確保することができず、極低温で見られる金属相および超伝導相の直接的な観測は未だなされていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、結晶性高分子およびドーパント分子の材料開発を進めると同時に、低温物性測定を継続して実施する。また、結晶性薄膜の特に結晶性の高いドメインを選択し、電極形成する微細加工技術を用いてよりクリーンな低温物性測定も行う予定である。前年度の成果より、ドーパント分子材料やドーパントとホスト高分子の複合構造評価が進捗しており、材料選定に目処が立っていることから、材料のスクリーニングをさらに加速させ、電子相転移の観測を引き続き行う。低温物性測定では、希釈冷凍機を用いた50 mK程度の極低温実験を本年度末に実施する予定であり、このタイミングに向けて材料スクリーニングを完遂する。最終的には、50mK程度まで低温電子輸送測定を実施し、超伝導転移の可能性を模索する。
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