本研究では、パイ共役系高分子において、固体中の電子相転移である超伝導転移を実現を目指した物質科学の研究を遂行した。無機凝縮系固体材料における超伝導は100年に渡り固体物理学の主役 であり、実験・理論の両側面から精力的に研究されている。様々な高温超伝導体が開発され、超電導リニアや量子アニーラ型コンピュータなどに応用されつつあ る。実施者は独自の材料設計及び電子状態の制御手法を用いて、室温で金属的な基底状態を有する高分子薄膜を開発した。 特に、剛直な共役高分子鎖を自己組織的に配列させたのちに、ドーパント分子を周期的に導入する技術を基盤とし、高分子材料の物質科学と低温電子物性計測を組み合わせた多角的な研究を遂行した。その結果、キャリアドーピング量として1高分子ユニット あたり1電荷が実現された高伝導度高分子において、極低温において金属的な電子輸送が実現していることが明らかとなった。 高分子材料だけでなく、単結晶状態を形成する低分子材料にも着目し、その電子状態の制御と電子相転移の可能性を模索した。精緻に配列した低分子結晶表面に高密度にキャリアドーピングを施した結果、有機半導体では世界初となる金属絶縁体転移を観測することに成功し、結晶表面において二次元電荷ガスを形成・制御することが可能となった。本結果は、分子の振動や欠陥などディスオーダーを有する系においても固体物理の予測する電子相転移が実現することを強く示唆し、超伝導転移の実現も可能であることが見出されつつある。 本研究の最終目的であった共役高分子材料の超伝導の実現は研究期間内には達成されなかったが、高分子の一軸配向技術とキャリアドーピング技術の双方に多大な成果が得られ、低温物性測定を継続することで電子相転移の可能性を模索する。
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