研究課題/領域番号 |
20K20566
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉村 英哲 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90464205)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | RNA / 生物発光 / 顕微鏡 / 多細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、組織・オルガノイド・小動物個体など多数細胞の集合により機能発現している生体試料について、その試料を生かしたまま遺伝子発現の時空間解析を行うイメージング技術群を創出することにある。すなわち「細胞集団内において、個々の細胞における遺伝子発現のどのような時空間的特徴が、標的とする生理現象の発現における核となる細胞の生成や、その後の増殖・伝播に対する必要条件となるか?」という「問い」を設定した。本研究ではこの「問い」に対する答えを得るために必要な、「生きた多細胞試料における遺伝子発現時空間情報の1細胞解像度経時追跡法」という、これまでに全く存在しない技術を創出することを目的としている。 この目的を実現するために、本研究では①遺伝子発現産物すなわち内在性RNA可視化定量を実現する生物発光プローブの開発②生体試料長期培養機能を備えた1細胞解像度4D生物発光顕微鏡の構築 を行っている。 ①の生物発光プローブの開発では、申請者が開発したRNA検出の独自技術であるmPUMテクノロジーを利用して、試験管内および生細胞内において標的RNAを生物発光で検出するプローブの構築を行った。②の顕微鏡開発においては、細胞培養環境を顕微鏡上に構築し、さらに薬液添加なども行いながらハイスループットに観察を行うシステムの構築を行った。さらにレンズアレイやホログラフィーを用いた3次元観察法の構築にも取り組んでおり、4D生物発光顕微鏡の構築に向けて進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
生物発光プローブの開発においては、プローブ開発と併せて蛍光タンパク質mCherryを用いた遺伝子発現量を評価レポーター系を構築した。この系を利用することで、開発したプローブが示す発光値と発現している遺伝子料を生きた1細胞単位で評価することができる。その結果から、プローブ発現量のばらつき由来による避けられない発光値のゆらぎはあるものの、シングルセル単位での遺伝子発現量の定量化について評価できた。また、マウス由来細胞とヒト由来細胞での発光地の測定・解析の結果から、本プローブが示すバックグラウンドは非常に低く抑えられており、生細胞における遺伝子発現量の定量に優れた性能を有することが示された。さらに本研究期間の最終年度を待たずに線維芽細胞の遊走反応や初代培養神経細胞における遺伝子発現およびRNA細胞内局在反応の可視化実験を進められている。 顕微鏡開発においては、顕微鏡を用いた解析法の一般的な弱点であるスループットの低さを克服するハイスループット観察システムの構築を完了した。このシステムを用いることで今後より迅速な顕微鏡観察及び生細胞内遺伝子発現評価実験が実現すると期待できる。さらにホログラフィーシステムを用いた3次元発光イメージング方の構築にも着手した。ホログラフィーを用いることで、当初目的である4D生物発光観察がより高い解像度で実現すると期待できる。 これらの結果から、本研究の進捗状況は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに行った、線維芽細胞の外部刺激に応答した遊走反応における遺伝子発現変化の生1細胞観察および初代培養神経細胞におけるRNA局在変化の観察実験をすすめる。線維芽細胞における遊走に伴うRNA集合は多くの場合固定細胞における染色像で観察されたもので、生細胞における数時間に渡るRNA局在変化は観察されていなかった。本研究で開発したプローブは生物発光を利用することおよび遺伝子導入により細胞内に構築できるという利点があり、生細胞を対象として長時間の遺伝子発現変化を追跡できる特長を有する。この特徴を利用して、生きた線維芽細胞におけるRNA量と局在の変化の可視化観察を試みる。同様に、神経細胞においては軸索伸長に応じてRNA特定のRNAが軸索を輸送されることが知られている。このRNA局在について本プローブを用いて可視化解析することを試みる。 顕微鏡開発においては、より広い視野での遺伝子発現を可視化できる顕微鏡装置の構築およびホログラフィーを用いた3次元発光イメージングシステムの構築を行う。高い解像度と広い視野を歪みなく実現するため、まずはPOCのためにテレセントリック光学系を用いた広視野・高解像度蛍光観察系を構築する。続いてそのシステムを生物発光観察へと転用する。ホログラフィー観察も同様に、まずはPOCのため生細胞における蛍光観察をホログラフィーを用いて3次元化するシステムを開発する。そのシステムを生物発光観察に応用することで、研究目的とする4D生物発光顕微鏡を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度において行う予定であった3次元生物発光顕微鏡開発において、まずは既存光学部品およびシステムを用いての装置の最適化を行った。そのため、2021年度に新規に購入する光学部品類にかかる経費は当初予定よりも低く抑えられた。一方で、2021年度におこなった装置の最適化の結果を元に、2022年度には新規な3次元顕微鏡システムおよび広視野・高解像度顕微鏡システムの構築を行う。そのために、前年度に使用しなかった研究費を必要としている。
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