研究課題/領域番号 |
20K20566
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉村 英哲 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90464205)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | バイオイメージング / 生細胞 / 生物発光 / RNA / 顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本申請研究は、生物発光イメージングを基盤とする技術を利用して、生きた細胞内において1細胞解像度での遺伝子発現定量解析技術を開発することを目的としている。すなわち、任意の生理現象(分化、リプログラミング、ガン化etc)が起こる前から完了するまでの全時間に渡って、標的遺伝子発現変化を1細胞解像度で経時追跡するための遺伝子発現可視化プローブ技術の構築を目指している。 2023年度はベータアクチンmRNAを原理実証の対象として、生物発光を利用した遺伝子発現産物すなわちmRNAの生細胞内可視化実験を行った。ベータアクチンmRNAの3'側に存在する非翻訳領域内の2箇所をプローブ結合箇所として選び、その領域に結合するRNA結合タンパク質PUM-HDの変異体mPUMを作成した。この変異mPUM2つに二分割NanoLuciferase(NLuc)断片を融合したプローブを作成した。このプローブは前年度までの実験で、試験管内における評価により、標的配列を有するRNAの添加と分解により、可逆的に発光地の増大と減少を示すことが確かめられている。このプローブをほ乳類培養細胞に導入し生物発光顕微鏡で観察したところ、細胞への刺激入力に伴いRNA顆粒を形成すること、およびその顆粒が細胞辺縁部へと集合していく様子が観察された。すなわちこの結果は、細胞生理現象の過程における遺伝子発現産物であるRNAの細胞内局在変化を継続して観察できたといえる。 以上のように本研究ではベータアクチンmRNAを原理実証の標的として、生物発光を利用した遺伝子発現産物の生細胞内可視化観察法を構築した。PUM-HD変異体の設計自由度から、本手法は様々な遺伝子発現産物の生物発光検出・可視化追跡法に応用可能であると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、申請時より開発目標の軸として定めていたターゲットは、生物発光を利用した生細胞内遺伝子発現プローブの開発であった。2023年度の研究によって、ベータアクチンmRNAを原理実証の標的とした生物発光プローブを開発し、生細胞内における遺伝子発現の生物発光による可視化観察を実現した。具体的には開発したプローブを生きたマウス由来線維芽細胞に導入し、成長因子刺激を細胞に加えた際の、細胞内のサブセルラー解像度での遺伝子発現産物、すなわちRNAの空間解析や経時変化の観察を実現した。この細胞内局在の経時変化解析は当初目的の中でも特に重視していたもので、従来の手法では、少なくとも内在性RNAを標的とした方法では、生物発光による可視化経時追跡は達成されていなかった。さらに本成果は、前年度までに行った試験管内におけるプローブの性能評価の結果と合わせてアメリカ化学会刊行の ACS Sensors に採択され掲載された。本プローブ開発に採用したmPUM技術は他の様々なRNAすなわち遺伝子発現産物にも応用可能であり、多くの生命現象について同様の解析を実現できると見込まれる。以上のような状況から、本申請研究はおおむね順調に進展しており、今後の発展についても期待できる成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では生物発光を利用した遺伝子発現産物のプローブを開発し、生細胞内での観察を実現した。続いての課題となる研究対象は、多細胞試料における遺伝子発現をサブセルラー解像度で観察し、細胞間の情報伝播に伴う遺伝子発現の変化を可視化解析することである。 そのため今後の研究では多細胞試料を一つの視野に捉え、サブセルラー解像度を保ちながら低倍率で生物発光顕微鏡観察を行うことで、多細胞試料における遺伝子発現1細胞可視化軌跡を行うことになる。またそのためのプローブ安定発現細胞株を構築する。この細胞をカバーガラス上で培養することで細胞シートを形成し、その細胞シート試料について長時間生物発光イメージングを行うことで、個々の細胞の動きや機能発現と連動した遺伝子発現プロファイルを1細胞解像度で可視化解析する。 また、多細胞試料は2次元細胞シートとは限らない。3次元細胞集団も試料として取り扱える方法の開発を目指す。具体的にはホログラフィックイメージング技術を採用し、生物発光プローブを発言した3次元多細胞試料に対してホログラフィック顕微鏡観察を行う。得られたホログラフィー像から生物発光シグナルの3次元構築を行い、遺伝子発現の時空間立体像を構築する。 これら技術開発を行うことで、生物発光遺伝子発現技術の応用範囲拡張を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本申請研究において、これまでに生物発光を利用した生細胞内遺伝子発現可視化追跡プローブの開発を行い、ベータアクチンmRNAを原理実証の標的とした生細胞内経時変化の可視化追跡を実現した。続いて本研究では、このプローブの多細胞試料に対する適用を行い、多細胞試料内において個々の細胞が連動して機能する際の遺伝子発現の経時変化プロファイル追跡を目指す。そのための装置構築および試薬等の購入のため、物品費として翌年度に使用できる経費を用意している。
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