研究課題/領域番号 |
20K20568
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
人見 清隆 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (00202276)
|
研究分担者 |
村井 篤嗣 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (10313975)
大蔵 聡 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (20263163)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 羊水 / 表皮細胞 / タンパク質架橋化酵素 / 空気暴露 |
研究実績の概要 |
本課題は表皮形成を立体的に再現できる細胞培養において、培地を除いて細胞層を空気に「暴露」させる操作が、分化に必須な刺激となるメカニズムの解明と、その現象から着想した羊水からの表皮細胞分化制御因子を探索することが目的である。空気暴露が分化に必要なメカニズムを解明する課題については、初年度に低酸素応答に関与する因子群が分化と関連する可能性を見出していた。昨年度はさらに展開し、低酸素応答を制御する種々の薬剤を加えて、分化マーカーの挙動を解析することで確実にした。また、従来用いていた初代培養細胞に加えて外来から遺伝子導入の容易な細胞株(Ker-CT)を対象にして同様の解析を進めた。このことにより、表皮細胞での特定の遺伝子の増減を調節して効果を調べることができるようになったため、低酸素誘導を支配する転写因子(HIF)の発現をコントロール(shRNA)して抑制し、表皮細胞分化に関与することを示した。加えて、培養時の酸素濃度を調節できる系を確立し、細胞分化にどのような影響がでるかを詳細に検討した。 もう一つの課題である、胎児の生育環境である羊水からの表皮細胞分化増殖因子の探索も、マウス、ヤギから大量に採取して精製を進めた。いくつかの精製手段を用いて、羊水に表皮細胞分化を制御する因子の存在を確認した。精製は分化マーカーとしてのSPR3、TG3(タンパク質架橋化酵素)の発現量を活性指標として進めた。初年度よりもさらに精製を進めて、質量分析によって候補タンパク質群を明らかにした。マウスとヤギにおいて、活性を発揮する分子について共通するものを中心に解析を進める段階に至った。並行して、トリの羊水に相当する有精卵の漿膜も対象にした結果、活性のある画分を新たに見出し、種を拡げて展開することができている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞培養系において空気暴露が表皮分化刺激を与えるメカニズムの解明:ヒト表皮初代培養に対する薬剤検討に加え、細胞株(Ker-CT)を用いてキーとなる低酸素誘導転写因子(HIF)を始め種々の遺伝子の影響を調べる系を確立し、空気暴露の有無で表皮形成に与える効果を解析できた。HIFの発現存在量は空気暴露で多くなるにも関わらず、転写活性自体は、空気暴露の無い方が高いという結果を得た。このため、低酸素応答が表皮分化に関与することをより詳細に調べる目的で、HIFの活性化剤を用いたところ、予想通り低酸素誘導が空気暴露においては分化を阻害するということが明らかにできた。加えて、培養系への酸素供給を制御できる実験系を用いて、空気暴露がなくても表皮細胞を分化の方向へ導ける可能性を示すことができた。 一方、羊水からの精製は、マウス・ヤギを給原に進めた。これらから大量の羊水を採取し、イオン交換クロマトグラフィーを始めいくつかの方法によって活性画分を分化マーカーの変動を指標に精製した。分化を促進する活性画分と、また別にタンパク質架橋化酵素を特異的に抑制するいう画分があるものを得た。含有される精製成分の同定を質量分析により進めた結果、いくつかの候補分子を見出すことができ、再現した結果を得るために、再度大量精製を行ってきた。また対象を拡げ、トリ受精卵の羊水に相当する漿膜を解析して、同様に表皮細胞の分化増殖に効果を与えることを見出した。
|
今後の研究の推進方策 |
表皮立体培養細胞系で分化を促すための空気暴露刺激が、低酸素誘導因子(HIF)の関与が明らかにすることができた。しかしその際、発現量と転写促進活性が相反する挙動を取るという興味深い現象を見出している。今後は、存在量が増えたHIFが核内においてどのような転写系を動かすのか、というアプローチを行うとともに、核内の相互作用因子を探索することも並行する。さらに、HIFの転写活性上昇または阻害を行える薬剤の適用以外にも、関連する遺伝子発現レベルの増減を行えるよう、ヒト表皮細胞株Ker-CTを用いてレンチウイルス系での遺伝子導入を行い、その因果関係をより明確にするべく、誘導発現などの解析を進め、下流で働いて分化を決定する遺伝子群を調べて特定する。 合わせて、特殊な方法で培養系に酸素量を適度に変動させることで、表皮形成に影響を与える効果を見出したので、立体培養産物が実際の表皮に近い形をとるためにはさらにどのような条件(培養期間、培地、刺激因子)をさらに改良すれば、空気暴露を経ずとも、液体での表皮形成培養を可能にするか検討する。 昨年度までにマウスを給原とした羊水から、複数のクロマトグラフィーによって、一定の段階まで精製を進めることができた。また大量の入手が可能なヤギ羊水(研究分担者・大蔵との共同)を同様の手法によって精製を進め、両者において精製画分を得て、質量分析によってその成分を同定している。最終年度となる今年度は、その再現性と共に各動物種で共通する成分の存在と既知機能を調べ、可能性の高い分子から組換えタンパク質を作製して、実際に表皮細胞の分化を制御するかどうかを検討する。トリ有精卵についても羊水に相当し活性を有する画分を得ており、分担者・村井とともに採取と精製をさらに進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度内に納品を予定していた研究材料(遺伝子発現用ベクターおよび培地添加成分など)について、欠品が判明および納品が遅延するため発注をとりやめた。翌年度に代替品および予定納品の購入経費にあてる。
|