研究課題/領域番号 |
20K20569
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
土屋 雄一朗 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任教授 (00442989)
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研究分担者 |
加藤 直樹 摂南大学, 農学部, 准教授 (90442946)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | 糸状菌 / 菌根菌 / ストリゴラクトン / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
大地に根を張り、大気中に葉を展開する植物は、環境を感知し、その情報を根を通して地下のエコシステムへと環流させることによって地上と地下の生物圏を繋ぐことで地球の生態系を支えている。植物が生産するストリゴラクトンは、植物ホルモン、共生、寄生という3つのプロセスに関わり、環境/植物/土壌微生物の相互作用を橋渡しする多機能なシグナル分子であるが、植物と寄生植物、あるいは進化的に大きく離れた菌類が、いかにして同一のシグナル分子を認識する機構を獲得したかについては不明な点が多く残されている。本研究では、遺伝解析が可能な菌類のモデル系を新たに探索し、得られた知見を菌根菌へと翻訳することによって、これまで遺伝的コンポーネントが一つも同定されていない菌根菌におけるストリゴラクトンシグナル伝達機構の解明を目指す。モデル菌株の選別を菌株ライブラリーより、人工ストリゴラクトンであるGR24に応答する菌株を見出し、その詳細な表現型解析を行った。当初は、菌糸細胞の屈曲伸長に着目してタイムラプスムービーから定量的なパラメーターを獲得しようと試みたが、野生の菌を扱っていることもあり、安定して統計的に優位な差を見出すことは困難であり様々な条件検討を行ったが、優位な差が見られる培養条件を設定できた。リン酸応答との関与を調べるために、酵母等で知られている既知のコンポーネントのホモログ遺伝子をモデル糸状菌より同定し、ストリゴラクトン応答をRT-PCRにより解析した。また、天然物化学の手法で菌類におけるストリゴラクトン様シグナル分子の探索も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、未だ遺伝的コンポーネントが一つも見つかっていない菌根菌におけるストリゴラクトンシグナル伝達を、モデルとなる糸状菌を用いて解明を目指す極めて挑戦的なものである。さらに、モデル菌株の探索から始める、文字通り一から研究領域を立ち上げるものでもあり、多くの困難が当初から想定されていた。この様な状況の中、モデル糸状菌の同定、安定したアッセイ系を確立し、ストリゴラクトンが幅広い菌類に作用しうることを初めて示すことに成功した。全体を通し、困難が予想された項目が解決しつつある点で、期待通り進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ストリゴラクトンは、植物がリン酸栄養の欠乏に瀕した際に救援シグナルとして土中に放出するシグナル分子であり、それを受け取るのは、植物のリン酸栄養の吸収を助ける菌根菌であるといった構図が考えられてきたが、菌側のストリゴラクトン応答にも菌のリン酸応答が関わっている点は生物学的に興味深いと考えられた。そこで、既知のリン酸応答とストリゴラクトン応答の関係性を、ノックアウト株やリン酸応答性の遺伝子発現等での解析をすすめる。また、トランスクリプトーム解析よりストリゴラクトン応答性遺伝子を同定し、そのプロモーターでGFPを発現する菌株の作成、およびそれを用いたストリゴラクトン非感受性変異株の道程を試みる。さらに、菌側で作っているストリゴラクトン様シグナル分子の同定に向け、大量培養を行い、天然仏化学の手法による構造決定にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初は想定していなかったラボの引っ越しがあり、設置予定であった装置の場所の確保できず、予定していたロータリーエバポレーターを年度内に購入できなかった。一方、同じフロアにある化学科の研究室のものをシェアさせていただける運びとなったため、この予算を技術員の雇用に充てることで研究の促進を測ることと方針変更した。
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