研究課題
植物は多くの微生物が共通に持つ物質を感知して自然免疫を誘導する。一方、自然界には植物の表面や内部に住み着く微生物が存在する。これらの微生物は宿主免疫を回避すると想像されるがその仕組みはわかっていない。本研究ではブドウ根圏に定着する根頭がんしゅ病菌Rhizobium vitis Ti株、その病気を拮抗する同属同種のVAR03-1株、非病原性非拮抗性のVAR06-30株、およびモデル植物シロイヌナズナを材料とし、片利共生細菌の植物根圏への定着機構を明らかにする。昨年までにこれら菌株を混合した寒天培地でシロイヌナズナを生育させた場合、根の周辺に細菌コロニーが形成されること、および培地にショ糖を添加すると植物の成長が著しく抑制されることを明らかにした。この結果から、細菌は炭素源を求めて植物への寄生(共生)を行うが、炭素源の存在によりそのプログラムが破綻したと予想し、ショ糖存在下でシロイヌナズナの生育を阻害しなくなるVAR03-1株の変異体を探索した。3変異株が得られ、原因遺伝子はTCA回路に関わるpycA、ビタミンB12生合成に関わるcobJ、膜脂質の生合成に関わるmprFで、いずれも生体維持機能の低下が予想された。これと一致して、各変位菌株はMS液体培地中での増殖速度が低かった。しかし、投入する菌体量を1/10にしても植物の生育阻害の程度が変わらないこと、変異菌株が植物周辺にコロニーを形成していたことから、増殖量ではなく共生行動の減退が原因と推察した。ショ糖存在下で矮小化した植物は防御応答を発現しておらず、矮小化は過剰な防御応答ではなく菌の過剰感染が原因と推測された。R. vitisの植物への定着能は、ショ糖により植物の生育を阻害するほどまでに活性化し、各変異体のように生体維持機能が低下すると、定着に割くエネルギーが欠如し、定着行為が低下して生育阻害効果が低減したと推測した。
2: おおむね順調に進展している
炭素源の存在により植物と細菌の共生関係が破綻するという現象を通じ、細菌側の共生行動の一端を明らかにすることができた。
根滲出液に含まれるショ糖以外の物質が共生関係に与える影響について明らかにする。植物側の制御機構はFERONIAを中心として報告されつつあるため、ショ糖が植物免疫に与える影響にも注目する。またPseudomonas属細菌なども炭素源存在下で同様の挙動を示すか否かを調査し、共生成立の普遍性について明らかにする。
コロナ禍によりブドウ畑の現地調査が制限されたため。次年度以降に実施する。
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