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2020 年度 実施状況報告書

低次栄養段階生物を対象とした「かいあし漁業」の可能性を探る

研究課題

研究課題/領域番号 20K20573
研究機関北海道大学

研究代表者

山口 篤  北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (50344495)

研究分担者 松石 隆  北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (60250502)
向井 徹  北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (60209971)
藤森 康澄  北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40261341)
別府 史章  北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10707540)
研究期間 (年度) 2020-07-30 – 2026-03-31
キーワード動物プランクトン / カイアシ類 / 資源量 / 漁具漁法 / 未利用資源 / オイル / サプリメント / オキアミ類
研究実績の概要

本年度は北海道大学大学院国際食資源学院漁業管理論の一環として「かいあし漁業ワークショップ」を、2020年11月12日~13日にかけて北大函館キャンパスにて開催した。参加者は留学生を中心とする20名弱で、言語は英語で行った。またかいあし漁業に関連する海産動物プランクトンを対象とした漁業として、ナンキョクオキアミ漁業に関する勉強会も開催した。ナンキョクオキアミは、単一生物としては地球上で最も生物量バイオマスの多い種として知られ、人類の食糧資源として注目され、日本も1970年代から漁業を行っていたが、採算ベースに乗らず、2011/2012年を最後に撤退している。ナンキョクオキアミについては、現在はクリルオイルを対象とした漁業がノルウェーを中心に行われている。ノルウェーのナンキョクオキアミ漁業はサプリメントを主要商品としており、漁獲後船上でサプリメントまでを加工する設備を整えた専用船を持ち、MSC認証を受けた企業がある。オキアミ類を対象とした漁業は、日本でも岩手県三陸沖にて、春先にツノナシオキアミを対象とする「イサダ漁」があり、そこで採集されたオキアミを使って「イサダオイル」の開発もなされている。一方、かいあし漁業を行っている企業は世界で唯一、ノルウェーのトロムセーにあり、その主要商品は「Calanus Oil」である。このCalanusとは、ノルウェー海で優占する年1世代を持つ大型カイアシ類Calanus finmarchicusやCalanus hyperboreusの名称である。北大西洋におけるCalanusに比較し得る、北太平洋の種はNeocalanus属で、Neocalanus属は年1世代の世代時間を持ち、体内に油分を貯める性質を持っている。このNeocalanus属を対象とした漁業の確立実行可能性を探るのが重要であるということが、初年度の調査研究の結論としてあげられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度は、かいあし漁業という、これまで漁獲対象としていなかった生物(カイアシ類)を対象とする漁業の実行可能性を探るための、背景調査を行うことが出来た。動物プランクトンを対象とした漁業として大規模に行われているものとして、ナンキョクオキアミ漁業が挙げられる。このナンキョクオキアミ漁業は、当初は食糧資源としての有用性を探るものであったが、商品単価が低く、漁業にかかるコスト面から採算ベースに乗らないという困難さがあり、日本は2011/2012年を最後に撤退したという経緯がある。しかしノルウェーでは主要商品をクリルオイルとして、そのサプリメントを船上で作成する所まで行う専用船を運用し、MSC認証を得るにまで至っている。このオキアミ類を対象としたオイル生産は、日本でもツノナシオキアミを対象とした岩手県三陸沖にて、「イサダオイル」として生産が始まっている。またカイアシ類を対象とした「かいあし漁業」は、ノルウェーのトロムセーにて行われていることが調査により明らかになった。現在はコロナ禍のため直接の調査は行えていないが、その市場調査や実行可能性について探ることも今後必要であると考えられる。このように現時点では、動物プランクトンを対象とした漁業に関する歴史的背景や、その主要産物などの文献調査が済んでいる。また実際の漁業対象海域として想定している北海道近海にて、カイアシ類Neocalanus属を対象とした飼育実験やカロテノイドに関する分析も行っている。予報的な結果として、Neocalanus属の体色は暗黒条件で飼育すると透明であるが、明光下に置くと、その体色は15分ほどで赤色に変化することが明らかになった。赤色は海水中では速やかに吸収され、見えにくい色であるため、この体色変化は、大型カイアシ類のNeocalanus属が魚類等の視覚捕食者から見つかりにくくする機能的役割があると考えられる。

今後の研究の推進方策

次年度には、初年度の調査研究で明らかになった、かいあし漁業を巡る状況をふまえ、国内の漁業関連団体などに聞き取り調査を行い、かいあし漁業成立のための条件を探る予定である。また、ナンキョクオキアミ漁業にてMSC認証を持ち、世界で唯一のかいあし漁業を行う企業のあるノルウェーは、動物プランクトンを対象とした漁業に関する先進国である。そのため今後は、ノルウェーの関連企業・団体への取材を行うことを予定している。ただしコロナ禍のため、実際の訪問は困難であると考え、その代替としてオンラインでの調査を考えているが、そのやり方や進め方については、少し慎重に行うべきかと考えている。また北海道近海でのカイアシ類、とくにNeocalanus属を対象とした生理生態に関する実験研究や分析も併せて行う予定である。とくに今後は、Neocalanus属の摂餌、同化、成長、排泄といった、生態系の中における機能的役割の定量評価を行うことを目的としている。該当海域においてNeocalanus属は、バクテリアから海鳥に至るまでの全ての海洋生物バイオマスのうち、年平均の15%を占めることが知られており、その資源量は膨大である。地球温暖化が進行しつつある現在、北海道近海でもマイワシやサンマなど浮魚類資源の変化が進行しつつあることが報告されている。当海域における浮魚類の主要な餌生物はNeocalanus属であり、その生態系内における物質循環に関わる上記指標(摂餌、同化、成長、排泄)を明らかにすることは、今後の海洋生態系変動を理解する上で、最も重要な研究と位置づけられる。そのため、Neocalanus属に関するこれら物質循環に関わるパラメーターが、水温が変化することによりどのように変化するか、水温上昇の影響を、船上飼育実験により明らかにする。また北大附属練習船による現場海域におけるカイアシ類の音響探知に関する研究を推進する。

次年度使用額が生じた理由

今年度はコロナ禍のため、当初の計画通りの研究進行が困難になったため、次年度使用額が生じた。次年度(2021年度)には、コロナ禍を想定した上での研究予算計画を定め、当初予定計画に沿った経費使用を行う予定である。

備考

研究室HP

  • 研究成果

    (20件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Seasonal variability of the protist community and production in the southern Okhotsk Sea revealed by weekly monitoring2021

    • 著者名/発表者名
      Matsumoto Takuma、Matsuno Kohei、Katakura Seiji、Kasai Hiromi、Yamaguchi Atsushi
    • 雑誌名

      Regional Studies in Marine Science

      巻: 43 ページ: 101683~101683

    • DOI

      10.1016/j.rsma.2021.101683

    • 査読あり
  • [雑誌論文] A morphological note on the pelagic polystiliferous hoplonemertean Protopelagonemertes beebei (Nemertea: Pelagica)2020

    • 著者名/発表者名
      Kajihara Hiroshi、Yamaguchi Atsushi
    • 雑誌名

      Plankton and Benthos Research

      巻: 15 ページ: 337~341

    • DOI

      10.3800/pbr.15.337

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Spatial changes in the summer diatom community of the northern Bering Sea in 2017 and 20182020

    • 著者名/発表者名
      Fukai Yuri、Abe Yoshiyuki、Matsuno Kohei、Yamaguchi Atsushi
    • 雑誌名

      Deep Sea Research Part II: Topical Studies in Oceanography

      巻: 181-182 ページ: 104903~104903

    • DOI

      10.1016/j.dsr2.2020.104903

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Distribution of Growth-Inhibiting Bacteria against the Toxic Dinoflagellate Alexandrium catenella (Group I) in Akkeshi-Ko Estuary and Akkeshi Bay, Hokkaido, Japan2020

    • 著者名/発表者名
      Onishi Yuka、Tuji Akihiro、Yamaguchi Atsushi、Imai Ichiro
    • 雑誌名

      Applied Sciences

      巻: 11 ページ: 172~172

    • DOI

      10.3390/app11010172

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Community structure and seasonal changes in population structure of pelagic polychaetes collected by sediment traps moored in the subarctic and subtropical western North Pacific Ocean2020

    • 著者名/発表者名
      AMEI KANAKO、JIMI NAOTO、KITAMURA MINORU、YOKOI NAOYA、YAMAGUCHI ATSUSHI
    • 雑誌名

      Zoosymposia

      巻: 19 ページ: 41~50

    • DOI

      10.11646/zoosymposia.19.1.9

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Vertical distribution, community structure, and active carbon flux of microzooplankton taxa: amphipods and euphausiids in the summer of the western North Pacific2020

    • 著者名/発表者名
      Hanamiya, Y., H. Murase, K. Matsuno and A. Yamaguchi
    • 雑誌名

      Bulletin of Fisheries Sciences, Hokkaido University

      巻: 70 ページ: 77-89

    • DOI

      10.14943/bull.fish.70.1.77

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Comparison of the vertical distribution of pelagic copepod abundance, biomass and community structure between the Atlantic and Pacific sectors of the Arctic Ocean2020

    • 著者名/発表者名
      Abe, Y., N. Hildebrandt, K. Matsuno, B. Niehoff and A. Yamaguchi
    • 雑誌名

      Bulletin of Fisheries Sciences, Hokkaido University

      巻: 70 ページ: 91-102

    • DOI

      10.14943/bull.fish.70.1.91

    • オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 北極海に生息する大型カイアシ類Calanus hyperboreusの生活史の海域間比較2021

    • 著者名/発表者名
      徳弘航季・小野寺丈尚太郎・三瓶 真・藤原 周・原田尚美・松野孝平・Eva-Maria Nothig・山口 篤
    • 学会等名
      第68回日本生態学会大会
  • [学会発表] 噴火湾における動物プランクトン群集の分類群組成、サイズ組成の季節変化2021

    • 著者名/発表者名
      寺岡拓未・飴井佳南子・深井佑多佳・松野孝平・大西広二・大木淳之・高津哲也・山口 篤
    • 学会等名
      海洋生物シンポジウム2021
  • [学会発表] 2017年と2018年夏季の北部ベーリング海における動物プランクトン群集と大型カイアシ類個体群の年変化2021

    • 著者名/発表者名
      木村文彦・松野孝平・阿部義之・山口 篤
    • 学会等名
      海洋生物シンポジウム2021
  • [学会発表] 西部北極海における同所的な中層性肉食性カイアシ類2種の生活史の比較:中層性r-戦略種の存在と特殊な摂餌様式2021

    • 著者名/発表者名
      山口 篤・Carin J. Ashjin・Robert G. Campbell
    • 学会等名
      海洋生物シンポジウム2021
  • [学会発表] 西部北太平洋亜寒帯域の水深 0-1000 m における浮遊性多毛類群集の鉛直分布とその昼夜/季節変化2020

    • 著者名/発表者名
      飴井佳南子・土橋 綾・自見直人・喜多村稔・山口 篤
    • 学会等名
      2020 年日本プランクトン学会・日本ベントス学会合同大会
  • [学会発表] 西部北極海における中層性肉食性カイアシ類 2 種(Paraeuchaeta glacialis とHeterorhabdus norvegicus)の個体群構造と生活史2020

    • 著者名/発表者名
      山口 篤・Carin J. Ashjian・Robert G. Campbell
    • 学会等名
      2020 年日本プランクトン学会・日本ベントス学会合同大会
  • [学会発表] Yearly changes in mesozooplankton biomass in the southeastern Bering Sea shelf during the summer of 1955-2013: Insights from T/S Oshoro-Maru data2020

    • 著者名/発表者名
      Yamaguchi, A., H. Hikichi, K. Matsuno, H. Ueno
    • 学会等名
      PICES-2020 Virtual Meeting
    • 国際学会
  • [学会発表] Diel, seasonal, and vertical changes in abundance, biomass, and community structure of the pelagic polychaetes down to 1000 m depths in the western subarctic Pacific Ocean2020

    • 著者名/発表者名
      Amei, K., R. Dobashi, N. Jimi, M. Kitamura, A. Yamaguchi
    • 学会等名
      PICES-2020 Virtual Meeting
    • 国際学会
  • [学会発表] Life cycles of the two dominant mesopelagic carnivorous copepods (Paraeuchaeta glacialis and Heterorhabdus norvegicus) in the Arctic Basin: Insights from SHEBA samples2020

    • 著者名/発表者名
      Yamaguchi, A., C. J. Ashjian, R. G. Campbell
    • 学会等名
      PICES-2020 Virtual Meeting
    • 国際学会
  • [学会発表] 2017年と2018年夏季の北部ベーリング海における大型カイアシ類の個体群構造の経年差:海氷融解時期との関係2020

    • 著者名/発表者名
      木村文彦・松野孝平・山口 篤
    • 学会等名
      日本海洋学会2020年度秋季大会
  • [学会発表] グリーンランド北西部ボードインフィヨルドにおけるマイクロおよびメソ動物プランクトン群集の空間分布2020

    • 著者名/発表者名
      筈見柊也・松野孝平・漢那直也・杉山慎・山口 篤
    • 学会等名
      日本海洋学会2020年度秋季大会
  • [学会発表] 低次栄養段階生物を対象とした「かいあし漁業」の可能性を探る2020

    • 著者名/発表者名
      山口 篤・松石 隆・向井 徹・藤森康澄・別府史章・細川雅史
    • 学会等名
      令和2 年度日本水産学会北海道支部大会
  • [備考] 北大プランクトン教室

    • URL

      http://hu-plankton.jp/

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公開日: 2021-12-27  

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