研究課題/領域番号 |
20K20573
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山口 篤 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (50344495)
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研究分担者 |
松石 隆 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (60250502)
向井 徹 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (60209971)
藤森 康澄 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40261341)
別府 史章 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10707540)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2026-03-31
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キーワード | 動物プランクトン / カイアシ類 / 資源量 / 漁具漁法 / 未利用資源 / オイル / サプリメント / オキアミ類 |
研究実績の概要 |
今年度はかいあし漁業の内容を広く一般に普及させるための情報発信を主に行った。国内学会の発表2件に加え、Fish of the Month (FoM) という、北海道大学水産学部の研究成果を紹介するHPにおいて、本科研費の研究分担者を主とする5名による、かいあし漁業に関する内容を紹介した。紹介内容と紹介者は以下の通りである:「海洋生態系におけるカイアシ類の重要性とかいあし漁業への夢(山口 篤)」、「カイアシ類の音響探知(向井 徹)」、「カイアシ類の音響散乱特性(福田美亮)」、「カイアシ類を対象とした商業漁業(藤森康澄)」、「カイアシ類-新たな水産脂質供給源として(別府史章)」。 カイアシ類を対象とした研究論文として、北太平洋亜寒帯域に優占する日周鉛直移動を行うカイアシ類Metridia pacificaの一次生産への摂餌インパクトを推定し、呼吸量による輸送量の推定を行った。これは、表層(0-50 m)と深海(50-200 m)の水温条件下において、同種の雌成体を飼育し、呼吸による酸素消費量を測定し、現場の表層における摂餌量の推定と、深海における呼吸による炭素輸送量を推定したものである。夜間の表層における個体数は1平方メートルあたり27~5422個体の間にあり、昼間の表層には本種は出現せず、これは日周鉛直移動の反映と考えられた。日周鉛直移動バイオマスは、1平方メートルあたり1-309 mg Cであった。1日の夜間表層と昼間深海での滞留時間を考慮すると、1日あたり1平方メートルあたりの摂餌量は0.04-11.04 mg Cと推定され、これは現場一次生産量の0-2.4%を占めていた。一方、昼間深海での1日あたり1平方メートルあたりの呼吸量は0.02-9.39 mg Cと計算された。これは有光層からの沈降粒子輸送量の0-10%に相当しており、物質循環における重要性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
かいあし漁業の定着については、まず広く一般にその重要性を認知して貰うことが必要である。そのための方策として、2つの関連学会(日仏海洋学会と日本プランクトン学会)にて「かいあし漁業」に関する発表を行ったところ、パラダイムシフトをもたらしうる漁業である、といった、いずれも高い評価を受けることが出来た。また、かいあし漁業の特集を行ったFish of the Month (FoM) ではSNSを通しての紹介もあり、直接の問い合わせもあったりと、着実にその認知度は広まっている。 かいあし漁業の先進国であるノルウェーにて、実際に操業を行っているCalanus ASのCEOであるKurt S. Tande博士とも直接メールコンタクトを行い、その実際について話を伺うことが出来た。ノルウェー水産局は、水産省がノルウェー海域でカイアシ類の制限付き商業漁業を開始することを推奨している。ノルウェー近海には大型カイアシ類(Calanus finmarchicus)の大量の資源があり、この未開発の資源は、水産養殖用の魚類餌料と人間が消費する製品の両方を生産する可能性があると認識されている。現在のところ、ノルウェーのEEZのベースラインの外側の2海域を漁場としている。ただし、同種は海洋生態系の鍵種であり、他の生物種にとっても、不可欠な食料供給であることから、「かいあし漁業」が他の主要な魚種の卵、幼生、幼魚に悪影響を与えないことが重要であると考えられている。そのため、理事会は潜在的に脆弱な種をリストアップし、遠洋トロール網に適合した船舶は、標準化された漁獲要件にも準拠している必要があり、当局は検査官またはオブザーバーの同伴を要求する場合があるとのことである。これらのかいあし漁業を行う際のレギュレーションは、日本近海でかいあし漁業を行う際にも必要なもので、更なる調査を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として、現在行っているノルウェーのかいあし漁業に関する調査をより広範囲に行うことが挙げられる。ただ、元々物価の高いノルウェーへの滞在調査はコロナ禍かつ円安が進んでいる現在、あまり現実的で無い。そのためメールやオンラインを使っての付随的な調査をさらに進めることを考えている。 また、多くのカイアシ類が体内に蓄積する脂質は主にワックスエステル(WE)であり、本研究プロジェクトにおいて主要な漁獲対象としているNeocalanus属や、ノルウェーのCalanus属のWEには、n-3PUFAの組成割合が高いことが知られている。n-3PUFA結合型WEを多く含むカイアシ類の脂質は、一日に2-4 gを摂取しても下痢症状が見られず、安全性に問題がないことや、EPAやDHAの摂取源として有用であることが、ヒト介入試験により報告されている。また、上記のカイアシ類種が体内に蓄積する脂質は鮮やかな赤色をしており、海洋性カロテノイドの一つアスタキサンチンが含まれる。アスタキサンチンは優れた抗酸化作用を示し、最近では化粧品や機能性食品としても製品化され、その有用性が広く認知されている。これら「かいあし漁業」を新たな水産脂質供給源として捉えた、脂質成分の分析についても研究を進め、単価の高い栄養サプリメント開発可能性を探る。 カイアシ類の生態に関する研究としては、Neocalanus属やCalanus属といった粒子食性(=植食性)種の生活史はよく調べられているが、肉食性カイアシ類の生活史に関する知見は乏しい。肉食性カイアシ類は餌の小型粒子食性種や大型種の初期発育段階への捕食を介して、低次生態系内でのエネルギーフローを改変し、高次生物への転送効率を変化させることが知られている。これら肉食性カイアシ類の生活史を明らかにするのが、今後の研究の推進方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に予定されている実習航海にて試料採取解析を行うため。
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備考 |
研究室HP
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